【文豪ストレイドックス】最強少女、通常運転【太宰治】

人生万事塞翁が虎-参 ページ15

最早誰も、止める者は居なくなっていた。皆僕達が居ないかの如く、清々しい迄に業務をこなしている。
取り敢えず太宰を叩いて此の戦いに終止符を打とう。そして寝よう。

そう思って見上げると、全然背が足りなかった。服に異能を割いて居る僕は、今此処で『変身』を使って背を伸ばす事が出来ない。不便な能力＿＿否、体質だ。


「太宰、A。痴話喧嘩もその辺にして、虎の調査に向かえ。今日明日で見付けるぞ」

「厭だ! 独りなら未だしも、太宰と行く位なら死ぬ!!」

「死ぬのかい!? なら一緒に死のうA!!」

「其れが御免だって云ってるんだよ!!」


国木田君の一言で、亦云い合いに成る。何方かが折れなければ終わりは無い。すると太宰も其れを判って居た様で、大振りに手を振って駄々を捏ね始めた。五歳児か。


「やーだー!! Aと仕事ー!!」

「煩い莫迦。一発殴らせて呉れるなら善いよ」

「やった!」


何故此奴は殴られると聞いて喜べるのだろう。

今回は僕が折れた。虎を見付ける位造作もないと考えたからだった。


「あー、そうだ此れ。朝餉…と云うか昼餉」

「有り難う!」


ビニール袋を太宰に渡す。と、行成手に触れられた。


「私、本当は昨日何したと思う?」


にたりと妖しく笑む。僕には其の瞳の奥の、真意何て計り知る事が出来なくて。唯、不思議そうに頸を傾げただけだった。


「何かしてたら殺るけど」

「じゃ遣りました」

「佳し殺す。半殺しにしてから与謝野せんせの異能で治療して遣る」

「其れだけは!」


云い合い乍ら廊下に出て、昇降機に乗る。静寂が訪れて太宰を見れば、僕が渡した袋からおにぎりを取り出して食べて居た。そう云えばお腹空いたな。

後ろの壁に背を預け、深く息を吐く。欠伸を零して袋に手を伸ばし、肉まんをかっ拐った。購ったコンビニ店のロゴが書かれたテープを丁寧に剥がし、未だ熱いそれに齧り付く。生憎僕は猫舌だった為、「熱っ」と呟いて肉まんを口から離した。

二度目の挑戦。同じ轍は踏まないと何度か息を吹き掛けてから齧り付けば、丁度好い熱さで美味しく頂けた。

肉汁が溢れだし、僕の口内を占領する。もっちりとした皮も残さず食べ切った。飯テロ御免。

そうこうしている内に、昇降機は一階を指して扉を開けた。


「あー……」


太宰が歯切れ悪そうに零す。何か忘れ物でもしたのだろうか。


「A、此の前の服のやつ。皆のも一緒に入ってるから」

「此の前の…あ、服購って呉れるってやつか。有り難う」

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