【イナイレ・氷浦貴利名】心の壁よ、溶けてしまえ。 (ページ3)

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1.出発直前【氷浦くんは次話から】ページ3

『…お洋服、良し。帽子、良し。
持ち物、良し…』

大好きな水色のトランクの中を、何度も何度も確認する。

…私…灯火 Aは、今日からイナズマジャパンの新入りマネージャーとして、故郷である伊那国島を出る。

噂によれば、マネージャーを追加で加入させるのは珍しいことらしい。
とっても光栄だけど、やっぱり緊張する…

「姉さん、電話ー」

『あ、硝子…ありがとう…、誰から？』

私の双子の弟…硝子は、私の様子を見るなり眉をひそめた。
……私、口に歯磨き粉でもついてたのかなぁ…！？

「…また緊張してるでしょ？そんなんじゃさー、
愛しの氷浦先輩に引かれるよ？」

『…っ！？』

氷浦……その名前を聞いた途端、顔が熱くなるのがわかった。

『…お兄ちゃん…』

思わず笑みが溢れ呟くと、硝子はニヤリと笑った。

「そーそー、そんな感じの顔でいーんじゃない？
まだその顔の方がマシだよ、姉さん」

『ま、マシは余計でしょ！？』

私が怒り出すのを見た硝子は満足気に頷き、
一枚の紙切れと、大きな袋を渡してきた。

『…何？これ』

「僕の電話番号が書いてある紙と、イナズマジャパ
ンの皆さんへのご挨拶の品。…ていうか姉さん、
このお菓子1カ月前に買ってたよね？忘れちゃダメ
だよ。僕の姉が非常識って思われたくないもん」

『だから、一言多いって…！』

硝子はまたニヤニヤし始めたかと思うと、突然私の耳元で囁く。

「姉さんさ…氷浦先輩の純粋さ…と、彼の恋愛関係
の鈍さ、わかってるよね？姉さんが
ガンガンいかないと、一生かかっても気持ちに
気づいてもらえないよ？」

『うっ…！』

中1男子とは思えないほどのアドバイス。
…でも…確かに、そうなんだけど。

元は、私がうじうじしていたせいで。告白もできないまま、離れ離れになってしまったし…

マネージャーの仕事も、正直いつまでできるかわからない。私が旅立ったら家は弟1人の状態だし。
もし硝子に何かあったら、私は急いで帰ることに
なるだろうから…

『硝子…ありがとう。いい弟だよ、あなたは…』

「うん…どうでもいいけどさ、時間大丈夫なの？
新入りが遅刻とか、笑えないけど。氷浦先輩に
幻滅されても知らないよー」

『…え？…みぎゃああぁあ！？』

…やばい。あと30分で集合時間…！？
私が発した奇声で笑い転げる弟をよそに、
慌てて家を飛び出した私であった。