微笑み返しただけなのに。2【鬼滅の刃】

. ページ43

炭治郎side



＿＿ずっと前から好きでした。

俺に向けられるその言葉が心からそうである、ということが匂いで分かったとして、付き合ったとしても、その人を本気で好きになろうとも思わなかった。


どさくさに紛れて最長半年、最短１ヶ月で何人もの女子を振った気がする。

申し訳なさなのか、そこの所だけは曖昧な記憶だった。



それが小学校高学年から続けば、中２には既にマンネリ化して、どうしようもなく刺激が欲しくなっていた。


それがマンネリ化する、というのもおかしな話だが。


…そんなある日だった。


他校との練習試合で、そこそこ遠い体育館に行って、帰っていた時だった。

鍵を拾ってくれた女子は、今までにいないくらい悪意もない、ただ善意という優しい匂いをしていた。優しい匂いは香水もあるのかもしれないが…。


それでも、目の前でにこりと微笑んだ彼女。



知っていた。知らないわけがない。


「えっ、合ってる?違った?」

『…梳摘さん?』

「え?いや、そうだけど…梳摘A…って何で知ってるの?」

『合唱コンクール。伴奏弾いてただろう?』


音楽のことはそう分からないが、彼女の演奏＿＿＿もとい、伴奏はとても綺麗だったのを覚えている。

彼女の双子の妹も、合唱コンクールと一緒に行われた文化祭で双子揃って有名曲をとんでもない完成度で披露し、一目おいた。二人揃って音楽家と呼ばれているのも納得がいく。

「ああ、そっか。歌う前に紹介されるもんね。…上手くは無かったけど」

『そうかな?』

「…うん、クラスがまとまらなかったし…知らないか」

『何があったんだ?』


深追いしたくは無いが、聞いてみたいことだった。

彼女の匂いも、少し辛そうだったから。



＿＿＿少しでもいいから、力になりたい。



俺は心からそう思った。

.→←.

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す