【HQ!!】雨のち雪。【影山飛雄＆及川徹】

Insensibility and liar ページ35

及川side




空はもう、大半が藍色。

辺りは夕日が沈みかかって、薄暗い。まだ電灯は点いてないけれど。

俺は細い道路で空き地のフェンスに背を預けて、スマホをいじっていた。

ホーム画面を、スライドして、また戻して。

LINEを開いてみて、また閉じて。


「及川さん……？」


不意に声がして、俺は顔を上げた。

「あっれ、飛雄ちゃんじゃん」

俺はフェンスから体を起こして、すぐに笑顔を浮かべた。

「なにしてんすか、こんなとこで」

烏野の制服である学ランに、エナメルを下げた飛雄ちゃんがそう言った。

「んー、ちょっと野暮用がね」

俺がそう答えると、飛雄ちゃんは「はあ……」と首を傾げた。

「ところでA知らない？」

俺が言うと、飛雄ちゃんは「あいつなら……」と口を開く。

「今日は先生に呼び出し食らってたから、一緒じゃないっす」

『今日は』ってことは、いつもは一緒に帰ってるんだ。

「ふーん、そっか」

俺はそう呟いて、再びスマホに視線を戻した。

既読すら、ついてない。


「あの……及川さん、」

まだ行ってなかったんだ。飛雄の声がした。

「なに？」

俺が顔を上げると、飛雄は少し困惑げな顔で、口を開いた。


「白木と、どんな関係なんすか……？」


俺は少し目を見開いた。

「飛雄ちゃん……知らないの？」

今のAから話すことはないとしても、中学の頃は、部活内じゃ暗黙の了解みたいな感じだと思ってたのに……。

「ああ、そっか。飛雄ちゃんは鈍感だからね」

「は？」と声を上げた飛雄ちゃんは、頭上に『？』が浮かんでいる。

俺は軽く笑った。

飛雄は気づいてなくても、多分、あのメガネ君は気づいてるかな。


「Aは俺の元カノ。付き合ってたんだ、俺ら」


軽い声で言った俺に、飛雄は目を見開いた。

「え、そうだったんすか？」

それでも、“普通に”驚いた反応だった。

だから、飛雄に対して、こんな感覚になるのは間違ってる。

「そうだよ。だから、俺はAのこと、よくわかってるつもりだ」

「少なくとも……」と、言いながら飛雄ちゃんに近づいて、少しだけ背中を曲げて。

すれ違いざまにその耳元で、


「烏野の奴らよりは、ね」



そう言った俺は、どんな顔だっただろうか。

姿勢を戻し、飛雄ちゃんに向き直って、にっこりと笑顔を作った。

そのときの飛雄ちゃんの顔が、また『？』を浮かべていたから、俺はまたフェンスに背を預けたんだと思う。

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