【HQ!!】雨のち雪。【影山飛雄＆及川徹】

recall ページ3

Aside




できることなら、踏み入れたくなかった。

嫌な思い出が、心臓を冷たくするから。


「白木さん、あとお願いしてもいい？」


クールな声が聞こえて、はっと我にかえる。

ウォータークーラーから水が出ていて、ドリンクボトルがかごに何本か入っている。

「それ全部入れたら、戻ってきて」

清水……と呼ばれていた先輩はそう言って、さっさと背を向けて体育館の方へ向かっていった。



「……なんで」

なんでこんなこと。

出てきた愚痴を途中で飲み込んで、私は仕事を再開した。

まあ、この２週間適当にやり過ごせば、あの生徒指導の教師も少しは静かになるだろうから、これくらい……。

無意識にため息。今日、何度目だろうか。




ボールの跳ねる音。

シューズの擦れる音。

ボールの感触。

ネットの高さ。


全部、まだ、覚えてる。




「……うわっ」

ぼーっとしてたせいで、ボトルが満タンになっているのに気付かなかった。水が溢れた。

最悪。ほんと……最悪。

もう一度ため息をついて、私はボトルのふたを閉めた。

そしてかごに入れて、それを持ち上げる。


体育館に向かって歩いていたら、扉の前で座り込んでいる奴がいた。

「……なにしてんの」

『どいて』とひと言で済ませればよかったと、すぐに後悔した。

そいつが顔を上げた。オレンジ色の目立つ髪だった。

「え、ああ。うーんと……追い……だされた？」

『追い出された』って、なにそれ。

内心で突っ込んだら、そのオレンジの足もとに落ちている一枚の髪に目がいった。

『入部届』と書いてある。


「……なにしでかしたんだよ」

思わず独り言で呟く。

「あれは、あいつが悪いんだって。くそー影山のやつ」

不満そうに口を尖らせて、わざわざ反応してきた。……『影山』……？



「俺がなんなんだよ」



その声に、オレンジはばっとそっちを見る。

「影山！ どこ行ってたんだよ」

そう言いながら立ち上がる。

「話そらすんじゃねぇ。俺がなんつったんだよ」


影……山……。

「？ だれだよこの人」

影山は私を見て、首を傾げてオレンジに問う。

風が吹いて、私の髪が舞った。金色の、髪。

ああ、そうだ。私……あの頃とは違うんだ。



私は何も言わずにオレンジの奴の傍を通りすぎて、体育館の扉を開ける。

言い合いを背中で聞きながら、扉を閉めた。

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