#50 重なる隙間を埋めようと ページ4
Aside
触れているのが唇だけだと気付いた。それ以外はどこにも触れていない。必要最小限。
ああ私、普通にこういうことができるのか。だったら、恋愛感情がなくてもこういうことができるなら、私のあの感情は、恋愛感情じゃなかったのかもしれない。
それならいい。それがいい。
顔を離した犬飼先輩が、私を見る。
「……瀬野ちゃんってさ、米屋のこと好きだよね」
目を見開いて顔を歪めた。今さっき、否定したものを、この人は。
「違いますよ、そんなんじゃない……」
否定して、否定して、そうじゃないと。そんなものに割いている時間なんてない。私が悩むことは、もっと他にあるじゃないか。
「……ふうん。瀬野ちゃんって、なんかよくわかんないな」
犬飼先輩が私を見る。
「……アドバイスしてやろっか?」
眉をひそめて犬飼先輩を見る。「別にいいです」と呟く。
「そう? おれ結構、的確なアドバイスができると思うけど」
「残念だな」と犬飼先輩が言う。なんだか、さっきから笑みが少ない。
空気の一部と化していた爆発音が止んだ。犬飼先輩がカチッと通信機能のスイッチを入れる。
『二宮さん終わったみたいですよ』
「そっか、じゃあおれも戻るよ」
『はい。ていうか通信切って何してたんですか。ひゃみさん困ってましたよ』
「あははごめんごめん。でもおれたちすることなかったでしょ」
犬飼先輩が通信でやり取りをしている。その顔はちゃんと笑っていた。
「じゃあね瀬野ちゃん。警戒区域はあんまりうろつかないほうがいいよ」
犬飼先輩は何事もなかったかのようにそう言って、ジャリとガラスの破片を踏んづけて窓に足をかけた。
「あ、そうそう、」
急に振り返る。
「さっきの、おれトリオン体だからノーカンだと思うよ」
「はい?」
何を言い出すんだと思って眉をひそめた。ら、犬飼先輩が笑う。
「あれ、生身のが良かった?」
「っ、トリオン体でよかったです……!」
あはは、と犬飼先輩は笑って、それから「じゃあね」と窓をくぐった。
◆
犬飼side
庭を出て窓を振り返ったら、瀬野ちゃんの姿はもうなかった。
「……よくわかんないな、瀬野ちゃんって」
おれとは違う人間だと思う。でも所々に垣間見えるそれは、どこか自分と重なる。
バラバラに壊れた欠片を集めて、必死にテープでグルグル巻きにして原形を保ってるのは、もしかしたらおれかもしれない。
「きっと辛いよ、これから」
灰色の雲を見上げて、呟いた。
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神楽(プロフ) - 瀬野ちゃんが前向きになっていくのが見ていてドキドキします!出水とか米屋とかの絡みが好きです!更新待ってます‼︎ (11月18日 10時) (レス) @page12 id: 18a9383861 (このIDを非表示/違反報告)
朝希 緑(プロフ) - 続き読みたいです! (2018年7月15日 15時) (レス) id: c6b5a5d14a (このIDを非表示/違反報告)
雫鶴鳩 - 面白いからこうしーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん (2017年10月7日 17時) (レス) id: 86c88d0ffc (このIDを非表示/違反報告)
兎亜(プロフ) - 表現の仕方が様々で、どんどん読み進めてしまいました。心情や状況が遠回しながらもわかりやすく、読みやすかったです。更新楽しみにしてます……! (2016年10月14日 23時) (レス) id: 930da2fbf6 (このIDを非表示/違反報告)
ちゅら玉 - 遅くなったんですが、続編おめでとうございます!瀬野さんの小説を楽しみにしながら更新を待っています。これからも応援しています。 (2016年5月24日 6時) (レス) id: 8312e057f6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:瀬野 | 作成日時:2016年3月31日 23時