【ワートリ】マイルストーン。2【米屋陽介】

#58 動き出した針の裏 ページ12

米屋side






「……すけ、陽介？」


その声を合図に不意に喧騒が戻ってきた。マック。

「ん？ おおわりい」

「体調悪い？ まあでも陽介だしそれはないか」

「お前な〜」

ぱちんとデコピンをお見舞いすれば、痛っと小さく声が上がる。

コーラの入ったストローに口をつける。


瀬野のあの反応は、やっぱり。

がじとストローを歯で噛む。

1年前のあの夏の日の表情と、昨日のあの赤い顔。

あの夏の日の言葉を、もう一度向けられたら。

自分は果たしてあの日と違う答えを言えるだろうか。



◇


迅side




「……やっぱりこうなるんだな」


夕日が半分沈んでいる。オレンジと藍の境界に、ちょうど飛行機雲の筋があった。

トリオン兵が山積みになった見慣れた景色をサングラス越しに見て、それから大きくそびえ立つ本部を見る。

おれの選択は正解か間違いか。

ボーダーにとってはきっと正解だ。ボーダーにとっては。


ヴーヴーとスマホが音を立てた。

「はいもしもし？ こちら実力派エリートでーす。……ふむふむ本部、………了解」

スマホを切ってふうとひとつ息を吐く。

ごめんなとも、おれはきっと言えない。






「迅、」


名前を呼ばれて、ぼんち揚げ片手に振り返る。

「おっ風間さん、ぼんち揚げくう？」

「会議でもないのに本部にいるのは珍しいな」

「今日はちょっと呼び出しがあってさ。もう終わったから帰るところ」

風間さんはぼんち揚げの袋に手を突っ込んで、ボリボリと口に入れる。

「そういえば迅、ひとつ訊きたいことがある」

風間さんが思い出したように言う。「ん？ なに？」。

「なぜ瀬野を引き戻した」

おれは少し目を見開いて沈黙を置いた。

「前にも言ったけど、ボーダーのより良い未来のためだよ」

風間さんが複雑な顔をした。

「……瀬野は危なっかしい。いい方向に流れるとは思えない」

「……Aに何か訊かれた？」

「……」

風間さんの目が黙っておれを捉える。おれは軽く笑って息を吐く。

「だからだよ」

「……？ どういうことだ」

「危なっかしいから、目の届く範囲にいてくれた方がいいでしょ」

風間さんが片眉を上げた。

「勝手に向こうへ行くより、正規の方法で目指してくれた方が都合がいいからさ」

「…………」

勝手に向こうの世界へ渡航されれば、ボーダーの今後に大きく響く事件になるかもしれない。

あいつを引き戻したのは、プラスを得るためじゃなくてマイナスを避けるためだ。

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