#48 降る ページ2
Aside
乾いた空気の家だった。
腰を下ろしたベッドも埃が少しだけ被っていて、きっと背を預けている壁もそうなんだろうと思ったが、コートを着たまま別段気にしなかった。
知らない人の写真が床に一枚落ちている。どこか遠くで爆発音がする。ここは警戒区域。
別になにをするでもない。
ただ壁に背を預けて、ベッドに膝を抱えて座っているだけだ。
雨の音がする。
確か、この近く。この近くであの人のトリガー反応が消えたのだと訊いた。
床の写真に少し目を向ける。
遠征部隊を目指していた。試験も何度も受けた。何度も不合格の通知が来た。
あの人の家族の話は聞いたことがなかった。ちゃんといるのかどうか、あの頃の私には別段興味のないことだったけど。
雨の音が、する。
バリンッ
小さくガラスが割れる音がして、視線を向けると、窓の鍵のところが割れていた。
カチャ、その割れた部分から手を入れて鍵が開けられる。
からからと窓が開いて、入ってきた人物は少し場違いな声色で言う。
「やっほー瀬野ちゃん、こんなとこで何してんの?」
スコーピオンを消して、犬飼先輩がジャリと中に散らばったガラスの破片を踏んでこっちに来る。
「…………割っていいんですか、それ」
「ああ別にいいんじゃない? この辺はもう捨てられてるでしょ」
私も任務のときに民家を傷つけないようにとかあんまり気を使う方ではないが、敵がいないのに必要以上に壊すのはなんだか気がひける。
「それに俺窓叩いたのに、瀬野ちゃん気づいてくれないし」
「え、そうなんですか?」
「そうそう。考え事でもしてた?」
犬飼先輩がパンパンと隊服のスーツを払う。雨だろうか。
「……いいんですか、サボってて。任務なんじゃ」
私の言葉に先輩は笑みを向けた。「ちょっとこっち来てみて」。
立ち上がって、窓のすぐそばの先輩の近くまで行く。犬飼先輩が窓の外を指差した。
「今日は俺たちの出番ないかも」
少し離れたところで雨のようにハウンドが降り注いでいた。さっきから聞こえていた爆発音はこれだったのか。
「あれって……二宮さんですか?」
「そうそ」
「……機嫌悪いんですか?」
「うーんまあね。今日雨だから」
眉をひそめて犬飼先輩を見ると、犬飼先輩は窓の外のハウンドを見ていた。が、不意に私に視線を向ける。
「瀬野ちゃんは雨好き?」
ピクと思わず手の先が跳ねた。
「……別に、普通です」
犬飼先輩が笑った気がした。
「俺は嫌いだな」
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神楽(プロフ) - 瀬野ちゃんが前向きになっていくのが見ていてドキドキします!出水とか米屋とかの絡みが好きです!更新待ってます‼︎ (11月18日 10時) (レス) @page12 id: 18a9383861 (このIDを非表示/違反報告)
朝希 緑(プロフ) - 続き読みたいです! (2018年7月15日 15時) (レス) id: c6b5a5d14a (このIDを非表示/違反報告)
雫鶴鳩 - 面白いからこうしーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん (2017年10月7日 17時) (レス) id: 86c88d0ffc (このIDを非表示/違反報告)
兎亜(プロフ) - 表現の仕方が様々で、どんどん読み進めてしまいました。心情や状況が遠回しながらもわかりやすく、読みやすかったです。更新楽しみにしてます……! (2016年10月14日 23時) (レス) id: 930da2fbf6 (このIDを非表示/違反報告)
ちゅら玉 - 遅くなったんですが、続編おめでとうございます!瀬野さんの小説を楽しみにしながら更新を待っています。これからも応援しています。 (2016年5月24日 6時) (レス) id: 8312e057f6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:瀬野 | 作成日時:2016年3月31日 23時