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「ごめん。……もう言わない。」
何も言わない俺に、Aは謝った。
別に、弱音を吐いたことに怒っている訳では無い。なんて返せばいいか、考えていただけで。
出来れば弱気になんてなりたくない。でも、人間誰でも落ち込む時はある。
毎日でも会いに行ってやると背中を叩いてやるのも、いいのかもしれない。世界のバレーを見たいならそれくらい我慢しろと焚きつけるのも、方法なのかもしれない。でも、俺の中ではどれもしっくり来なかった。
だから、
「俺も、出来ることなら離れたくねぇよ。」
素直な気持ちを、伝えてみた。言ったあと、少しの後悔とどうしようも無い羞恥心が身体中を駆け巡り、顔が熱くなった。手汗がぶわりと出る。
驚いたようにピクリと動いたAが、顔を上げたのか背中に当たっていた何かが離れていった。
同じチームで、プレーヤーとして一緒に戦えたらどれほどいいだろうと思った。でも俺は男でAは女。現時点で、同じチームで戦えることは無い。
それと同時に、俺たちが目指す先というのは見えないほどに遠い遠い世界だ。立ち止まる訳にもいかないのなら、現状を受止め、走り続けるしかない。それは俺も、そしてAも、嫌という程理解しているはずだった。
ふふ、と後ろからと小さく笑う声が聞こえる。
「……そっか。ありがとう。」
そう言ったAの声色は、嬉しそうだった。
「……話したいことは終わりか?」
「うん、終わり。」
自転車を漕ぎながら、頬にあたる冬の風の冷たさが、今は心地いい。ボソリと聞くと、Aはどこか浮ついた声で返事をした。
それからは、お互いの合宿の話をした。すごいプレーヤーがいただとか、練習がどうだ、監督がどうだと、話す話題は尽きなかった。
自転車を漕ぐスピードを遅くして、少しでも長く、この時間が続くようにと思った。
「……」
「着いちゃった……」
だが、たかが15分の距離を対して延ばせる訳もなく、俺たちは、Aの家の前に自転車を止めた。
Aが自転車から降り、俺の前に回り込む。少しだけ名残惜しいと感じているのは俺だけではないようだった。
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しおり(プロフ) - りんさん» ありがとうございます!ネタ考えます🤔 (2022年11月30日 8時) (レス) id: 0e2f0640dd (このIDを非表示/違反報告)
りん - マジで面白いです!いつも楽しみの更新待ってます (2022年11月27日 20時) (レス) id: e34fa82e55 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しおり | 作者ホームページ:http://nanos.jp/amakusa40/
作成日時:2022年10月10日 21時