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「風邪引いたら大変だから、今日はこれくらいにしとこう。」
無理やり気を取り直したように。そして、雰囲気を断ち切るように。Aは少し上擦った声で言った。
時計を見ると、会ってから15分以上は経っているようだ。
確かにそろそろ体が冷えてきてもおかしくないし、事実こんなタイミングで風邪でも引いたらシャレにならねぇ。
もう少し。そう思ってしまった自分がいたのは確かだったが、大人しく頷いた。
「明日、行けたら応援行くね。」
「あぁ。」
「皆にもよろしく伝えておいてね。」
「わかった。」
じゃあ、とAは小さく振った。
いつも、別れ際は少し、寂しいと思う。多分。
あんまり感じたことがねぇから、曖昧な感覚だが。
足を動かして、Aに背を向ける。しばらく歩いて宿が目の前になったところで、あいつはもうホテルに戻っただろうかと振り返ってみるとまだいた。
俺が振り返ったことに気づき、再度笑顔を浮かべて手を振っている。
あんまり振り返ったことは無かったが、いつもAはこうして、俺が見えなくなるまで見送ってくれていたのかもしれない。そう思うと、なんか、心臓がぐっとなって顔が歪んだ。
「……」
携帯を取り出し、「早く部屋戻れ。風邪引く。」とだけ打ち込んだメールを送る。
声を張れば届いたかもしれないが、近所迷惑かもしれないと、キャプテンに騒ぐなと言われた言葉を思い出して思い留まった結果だ。
携帯に受信された俺のメールを不思議そうに開いたAは、ちらと俺の方を見た。そしてすぐに何か返事を打っているようだ。
「!」
ブブブと携帯が震え、メールの受信を知らせる。
『ごめんね。ちょっと名残惜しくて。
心配してくれてありがとう!
明日も頑張ってね。おやすみなさい』
絵文字が施されたAからのメール。件名は「飛雄くんへ」になっていた。
読んだ後に顔を上げると、Aは俺に向かって再度手を振り、ホテルの中へと歩いていった。
なんか……なんだ、何だこの気持ちは。
よくわからない未知の感情を抱きながら宿に戻る。
「満たされた顔してんじゃねーぞ」
顔を合わせた途端何故か田中さんに凄まれ、とにかく嫌な感情ではないことだけは理解した。
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しおり(プロフ) - りんさん» ありがとうございます!ネタ考えます🤔 (2022年11月30日 8時) (レス) id: 0e2f0640dd (このIDを非表示/違反報告)
りん - マジで面白いです!いつも楽しみの更新待ってます (2022年11月27日 20時) (レス) id: e34fa82e55 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しおり | 作者ホームページ:http://nanos.jp/amakusa40/
作成日時:2022年10月10日 21時