第14話 ページ19
「なんで帰ったの」
今、Aの目の前には長身の赤髪が不貞腐れて立っている。
先程撮影を終えたキヨは、そのままAの家にやって来てはこの調子。
時間も深夜2時過ぎとそこそこ迷惑な時間だが、フジが事情を説明しても尚、キヨはAから連絡が無かったことに納得がいかなかったらしい。
『…彼女かよ』
「言うだろ普通」
『フジが移すなって言ったっけ帰った』
「日変えるとかするじゃん、普通」
『予定合わないでしょうが』
『病人に立ち話させるなよ』と仕方なくキヨを招き入れる。
どうやらキヨはメンバー全員揃っての撮影がしたかったらしい。
しかしそんな事を言われても無理矢理撮影を試みるとそれはそれで機嫌が悪くなるから、賢明な判断だったとAは主張した。
それでも機嫌が悪いのは、体調を崩したのは自分の所為だとでも思っているからなのだろうか。
ソファに座って拗ねる頭をポンポンと少し雑に撫でる。
『5人ではまた今度ね。特別に2人でも良いよ？』
「調子乗んな。しっかり俺の風邪貰いやがって」
『昔っから体弱いの知ってるのにキヨっちゃんが帰んないでって泣いたんでしょー？』
「捏造！さっさと帰れしか言ってねぇ！」
『いーや！覚えてますよ俺は。いぶちでも坂田でも無くAの看病がいいって言ったもんね！』
「言ってねぇ！」
じゃれ合いと言う名の口喧嘩を交わして咳き込むAの背中を擦る。
触れた背中はほんのり暖かく、服越しでも体温が感じるということは少しずつ悪化しているのだと気付いた。
半ば強制的にAを寝室へ押し込み、ベッドへ寝かせて布団を掛ける。
『結局世話焼きたいんじゃん』
「自分自身を犠牲にして活動してんのはどっちだよ」
『なぁんで知ってんのー？フジチクった？』
「俺は楽しいから実況やってんの。お前みたいに我慢はしてない」
『寝る時間削ってまで編集してんじゃん、だから目悪くすんだよ』
「寝る時間削って撮影来てた奴に言われたくねぇ」
『もっと自分を大事にしなよ』
「そのまま返す」
どちらも譲らない言い合いはヒートアップして喧嘩になるのがオチ。
いつもであればフジかこーすけが止めに入ってくれるのでじゃれ合いで済むが、誰も居ない今は終わることなく声が荒くなる。
『バカにしに来たのか見舞いに来たのかどっちだよ』
「撮影サボったから文句言いに来ただけ」
『サボってねぇっつーの、マジで怠いから帰って』
「…あぁ、そう」
弱々しく吐かれた声を無視して、Aは眠りに着いた。
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作者名：憐
| 作成日時：2023年8月18日 13時
