第9話 ページ12
「やっと来たな小僧」
今日は実況を撮る気分じゃないなー、なんて家でゴロゴロしていた時のこと。
突然友人の牛沢から「何してんの？」と連絡が来た。
何もしてないと素直に答えると、今から出掛けようとこちらもまた唐突に誘ってきたのである。
『どこ行くの？』
「ん？決めてない」
『え？まじで思い付き？』
「キヨと散歩の予定だったんだけどさ、あいつ打ち合わせ長引くって言ってて」
『暇潰しのお相手ですか。アタシを都合のいい女みたいに』
「キヨがAなら絶対暇してるって言うから」
『あの野郎』と自分を売った友人に怒りも何も篭ってない言葉を吐く。
散歩の予定で家を出てきた牛沢と、急に呼び出されたAは2人揃って貴重品しか持っていない状況だった。
『…うっしーサウナ行く？』
「えぇ？今から散歩すんだよぉ？」
『サウナで汗かけば同じぐらいじゃん』
「お前たまには運動しろ」
確かに最近お腹辺りがむっちりしてきたけど。
と、ムスッとしているとお尻にさわさわと触れられる感覚がある。
『ねぇ、ガッチさんみたいな事やめてくんない？』
「肉が付いていいケツじゃ〜」
『最低まじで。やっぱりアタシの体目当てだったんだ』
何の意味の無いやり取りをしながらキヨの家付近まで歩く。
先程帰宅して用意すると連絡があったので、暫くしたら出て来るだろう。
それまで最寄りのコンビニでキヨを待つ。
「お、あれじゃないすか」
『ん？あ、ほんと』
「ごめーん」と表に出るいつものキヨより幾分かテンションの下がった、気の抜けた口調の長身がニコニコと歩いてきた。
「完全にオフですね、あれ」
『オフですね〜、そのうち躓きますよ』
「あー、ほら言わんこっちゃない」
仕事が終わり気が抜けたことで天然度が2倍になったキヨを二人で実況する。
ようやく2人の元に辿り着いたキヨは「おつかれ」とAが食べていたホットスナックにかぶりついた。
『お前っ！？ちょうだいって言え！』
「ちょうだい」
『遅いわバカ！』
「腹減ってんなら何か買ってくれば？」
「んー」
買ってくるとポケットをパタパタと確認しながら店内へ入っていくキヨ。
しかし数秒で戻ってきて、照れたように顔を手で覆いながら「財布忘れた…」と呟いた。
今日は天然度2倍以上だと顔を見合わせるAと牛沢。
『携帯で払えるしょ？それも入れてないの？』
「充電無い」
「お前何しに来たんだよ」
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作者名：憐
| 作成日時：2023年8月18日 13時
