7.懐かしい ページ7
「お疲れ様でーす」
20時にバイトを終えて店を出ると、冷えた空気が私を包み、少しだけ身震いする。
もうすぐで夏とはいえ、まだ夜は冷えるなぁ。
脇に抱えていたブレザーをいそいそと身に着け、高級分譲マンションへ帰るべく足を踏み出した。
瑞稀「―――スマイル、テイクアウトで」
先ほど私が出てきた扉のほうから声が聞こえ、踏み出したばかりの足は再び止まる。
振り返ると、その人物はだるそうに片足に体重をかけて突っ立っていた。
「瑞稀、まだ居たんだ」
瑞稀「注文したからね。お持ち帰りで。」
相変わらずのギャップを感じさせる笑顔で私のほうへスタスタと歩いてきた。
この笑顔、懐かしいなぁ。
私も思わず微笑んだ。
瑞稀「バイトしてるとは思わなかった。しかもこんな遅くまで」
「んー、うん」
瑞稀「なんでバイトしてんの？金…は、あるか」
「うーん、社会勉強みたいな」
瑞稀「ふーん」
私がはぐらかしているのに気付いたのか、バイトについてはこれ以上質問してはこなかった。
でもやはり瑞稀は心配してくれているのか、チラチラと私のほうへ視線を移すのがなんとなくわかった。
…話題を変えよう。
「そんなことよりさ、涼も元気でやってる？」
出来るだけ笑顔でその話題を出したが、”しまった”と自分の言葉で笑顔が凍る。
涼って、こないだネットで熱愛写真が流出して活動自粛したばっかだった。
瑞稀「うん。元気だよ。ちょっとこないだやらかしちゃって上の人たちに何度も呼び出されてたけど」
瑞稀のなんともなさそうな顔を見ていたら、そんなに大事でもなかったのかとも思えたが、私はまた考え直す。
大事じゃないわけがない。
「…そっか、私もネットでちらっと見たよ。大丈夫、かな」
瑞稀「てゆーか、俺が大丈夫か確認したいのは、Aなんだけど。」
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作者名：しお
| 作成日時：2020年2月20日 20時
