43.ありがとね ページ43
永瀬先輩の布団は暖かくて、そのぬくもりに少しだけ気持ちが和らいだ。
泣いていた顔を見られたくなくて背中を向けていると、後ろからぎこちない仕草で頭に手を置かれた。
まるで子供を寝かしつけるような手の動きに、次第に頬を伝っていた涙も乾いていく。
そうして私は、いつの間にか眠っていた。
.
.
朝、思い瞼を持ち上げるようにして目を覚ました。
「……せんぱいの匂い」
布団から落ち着くにおいが感じられ、私はそこでやっと昨日の出来事を思い出す。
隣に先輩は居ない。もう起きているのだろうか。
重い体を無理やり起き上がらせ、リビングへ向かった。
「おう、やっと起きたか。」
「…おはようございます」
思ってたよりもいつも通りの先輩に、なんだか肩すかしをくらった気分になる。
「ちょうど朝飯出来たで。食うやろ？」
「…え、っと」
「食うぞ。顔洗ってこい。」
「はい…」
.
朝ごはんを食べながら、私はボソリと話を切り出した。
「昨日は…なんか色々すいませんでした。」
「なんやねん今更。別に謝る必要なんかないわ。たまにはそういうの吐き出しとかなあかんやろ」
「でも、」
「あーもう、頼れって言うてんねや。アホやなほんま」
そう言って少し照れ臭そうに食パンをかじった。
それを見た途端、私の心の中で何かが変わった気がした。
思えば不思議だ。
初めて会った日からそんなに時間も経っていないのに、まるで自分のすべてを見抜かれているみたい。
「せんぱい」
「何や」
「…ありがとね。」
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作者名：しお
| 作成日時：2019年8月8日 18時
