15:幻 ページ18
『よろしく、お願いします…』
力が込められるのがわかる、けれど、耐えれないことはない、表情を変えずに彼の細い目を見つめ返した。
何故だか、目を離したらダメだと思った。
「……」
『……』
この無言のやり取りで彼は小さく笑った。その直後、フーゴの手が二人の間に割り込んできた。
チョップが手の甲に当たった。地味に痛い。
「おっと」
「……パイソンお前」
「すまなかったよ、ちょっと気になっただけさ…過ぎたことなのに、“白”には敏感になっていけないな」
『何の話？』
「気にすんな」
そうフーゴに言われて疑問が残ったが、彼の自己紹介で理解する。
あと二人いないらしいが、疲れているだろうから休めとパイソン言われる。
フーゴが手を握りにきた。
『それじゃ私が回復しないんだけど、』
「ちっ」
投げるように離してきたので、腰に拳を軽く突き入れた。睨まれたのでAは、逃げるようにして走り出した。
『ちょっと探検してくるっ』
うろうろして中二階に行き着いた。
どこを見渡しても溶鉄に囲まれてとても暑い、汗を拭い血痕に触る。
『ここが、フーゴが死にかけた場所…』
また、胸にどす黒い何かが浮かんでくる。
この感情に、今はまだ、名前はつけられない。付けてしまうには早過ぎる、この気持ちはきっと…私の気持ちなのだから。
『ごめんね…助けてあげられなくて、』
オスカーさんに死んだと言われて本当にゾッとした。
ゾッとしたと同時に浮かんだのは、殺意だった。ノエルを、殺したくなった。
彼が蘇る訳でもないのに、復讐を考えた。
そんな自分が許せない。
「しけた面してんな」
『！』
「…俺はここだ。ソコじゃねぇ」
真っ直ぐにフーゴを見た。
怪我をしていたあの時とは違う、違うのに…同じ眼をしていた。
『っ…私は、やっと君に……君に会えたんだっそれだけで良かったのに…こんなところで死にそうな君を見て、助けたくて…ここに来た、いや。来れたんだ…けど、助けれなかった…』
自然に目に涙が溜まる。
『助けるだけじゃダメだ、私は……私が、君を守らないとっ』
「粋がんなよシスター…俺は守られるタマじゃねぇ」
胸ぐらを捕まれ引き寄せられる、間近で顔を見ると少しだけ恐怖を感じた。
怖い、初めて彼自身に恐怖を抱いた。
『それぐらいわかってるわよ…でもね、でも…もう二度とあんな思いはしたくないっ』
。
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作者名：名取針子 | 作成日時：2018年1月2日 22時
