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もちろん落として割れても良いような安物のコップに喩えられたことも悔しいけれど、一番の理由はこれぽっちも彼から恋愛対象として意識されていないってことだ。
薮の特別になりたい。
そんなまるで高校生の恋愛みたいな気持ちを馬鹿みたいにずっと抱えている。隣の涼しい顔をした彼はそんなことにはきっと気づいていないだろうけど。「いいんじゃない？人魚姫」
いつの間にか蚊帳の外になりつつあった本来の話題を元に戻したのは薮の方だった。
「後先考えずに突っ走っちゃうところ」
「え？」
「そういうとこ、伊野尾に似てる」
「……どういう意味？」
その言葉の真意がわからず眉を寄せ首をひねる。そんな俺を見て薮は何か言いかけたものの、そのまま濁すように曖昧に笑った。
「俺は嫌いじゃないよ、人魚姫」
「えっ、バッドエンドなのに？」
「悲劇だからこそ輝く話だってあるもんだよ」
薮の言うことは俺には到底理解し難いものだった。少しだけ上の彼が俺よりもずっと大人びて見えて、なんでか妙に面白くなくて押し黙ってしまう。
「……俺は好きになれないや。悲劇より喜劇のほうが輝いてるに決まってるもん」
少しの沈黙の後、自身が漏らした声は随分と悄気た音をしていた。何も言わずに困り笑いのような表情を浮かべる薮は、どうやらこっちの心情をばっちり汲み取っているようで、それがたまらなく悔しい。まるで小さな子供相手にするような対応をされて不貞腐れつつも、そのまま椅子から立ち上がった薮にどこか行くの？と問いかければ、ちょっと自販機までねと短く答えが返される。
「俺買ってこようか」
「いや、いいよ。伊野尾は机の惨状をなんとかして」
「……ハァイ」
「何その嫌そうな顔。元はと言えば伊野尾が原因だから」
「わかってるよお〜」
「わかってるならさっさと手を動かす」
学校の先生みたく口うるさい薮が出て行ったのを確認し、目の前に広がった土砂崩れならぬ紙崩れを尻目に机へと突っ伏す。そのまま顔だけを横に向けると窓から外の景色が見えた。おかしいな、夏の空ってこんなに色褪せたものだったっけ。
「悲恋なんて、辛いだけじゃない」
誰にも聞こえないような小さな言葉。それでいて重たい言葉がひとりきりの空間にぽつりと落ちていく。
グラスの中の氷が溶けて、カラリと乾いた音を立てた。
Fin.
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琴葉(プロフ) - ひなたさん» コメントありがとうございます！矛盾しているその気持ちわかります。映画が終わった瞬間だとか、最終巻を読み終えた時だとか。薮くん視点やその後のお話、考えてみますね。時間がかかってしまうのですが、待っていていただけると嬉しいです。とりあえずただいまです。 (2018年5月22日 16時) (
レス) id: 3ce7e31af3 (このIDを非表示/違反報告)
ひなた(プロフ) - おかえりなさい。今更みたいになってしまいましたが。完結してしまったんですね。続きを読めて嬉しかったけれど終わってしまうと一抹の寂しさ。個人的には薮くんサイドのお話やその後のふたりも気になります。また落ち着かれたら新しいお話もお待ちしてます(^ω^) (2018年5月19日 20時) (レス) id: 85d71dbfbe (このIDを非表示/違反報告)
琴葉(プロフ) - かほさん» こんにちは。受験、終わりました。応援ありがとうございます^^ (2018年3月7日 15時) (レス) id: 3ce7e31af3 (このIDを非表示/違反報告)
琴葉(プロフ) - ひなたさん» こんにちは。受験、終わりました！待っててくださってありがとうございます。今週中には更新するつもりです。遅くなってごめんなさいm(_ _)m (2018年3月7日 15時) (レス) id: 3ce7e31af3 (このIDを非表示/違反報告)
かほ(プロフ) - このお話大好きです。受験、応援してます！ (2018年2月10日 20時) (レス) id: fb0730de71 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：琴葉 | 作成日時：2017年8月23日 12時
