. ページ38
それでも、今鼻腔に感じるのは、香水ではない、気持ちを落ち着かせるような、安らげるような、そんな匂いだった。このまま目を閉じて、眠ってしまいたいくらいだ。嗅いだことある気がするのだが、これが一体何の匂いだったか、思い出せない。
すぅ、とまた大きく息を吸って顔を緩めたところで、ふと伊野尾は他のメンバーたちが黙り込んでいることに気付く。別に特定の誰かに話しかけていたわけではないけれど、7人もいれば普通は誰かが相槌でも打ってくれるものだろう。何故、誰も言葉を発しないのか。純粋に寂しい。
「え……なんでみんな黙ってるの……?」
7人の顔を順に眺めていくと、それぞれ、なんとも言えない表情を浮かべている。神妙な顔、信じられないような顔、にやにやと奇妙に緩んだ顔。その中で何を考えてるのかわからない表情の知念が、不意に口を開いた。
「……さっきまでそこに、ずーっと寝てたよ」
真顔の知念が、わざとなのか、一番重要な部分を抜かしてそう口にした。
「誰、が…?」
何となく嫌な予感を感じながらも、話の流れからそう聞かざるを得ない。若干顔を引きつらせながらぎこちなくそう問いかけた時、この場にいなかった残りのメンバーが姿を現した。
「はぁ〜〜、なんでミルクティー売ってないんだよ、ここの自動販売機」
そんなことを言いながら部屋に入ってきたのは、高木だ。普段なら、律儀に答えてあげるであろう八乙女も、何故か黙っている。高木は微妙な空気に若干気づき、頭にはてなマークを浮かべながらも、伊野尾の横にどさりと腰を下ろした。いつもの香水の香りがしない。ここに来る前、シャワーでも浴びたのだろうか。
「なんだ、伊野尾くん、来てたんだ。今日なんか疲れない?俺なんか帰ってきてからずっと寝てたんだよ」
は〜、とため息つきながら、高木は伊野尾をソファの下に押し退け、ごろりと寝転がった。ちょうど、伊野尾が先程匂いを嗅いでいた辺りだ。
7人の、居たたまれないような、からかうような、そんな視線を感じる。
(……俺、さっき、なんて言った…?)
つい1、2分前の自分の台詞くらい、さすがに覚えている。どちらかというと忘れたいし、いっそのことなかったことにはしたいが、生憎脳内で巻き戻して再生されてしまった。
――この匂いが好きだとか、落ち着くだとか。
(この匂いって……高木の、素の匂い?)
そう意識した途端、ぶわりと一気に顔が熱くなった。
185人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
琴葉(プロフ) - ひなたさん» コメントありがとうございます!矛盾しているその気持ちわかります。映画が終わった瞬間だとか、最終巻を読み終えた時だとか。薮くん視点やその後のお話、考えてみますね。時間がかかってしまうのですが、待っていていただけると嬉しいです。とりあえずただいまです。 (2018年5月22日 16時) (レス) id: 3ce7e31af3 (このIDを非表示/違反報告)
ひなた(プロフ) - おかえりなさい。今更みたいになってしまいましたが。完結してしまったんですね。続きを読めて嬉しかったけれど終わってしまうと一抹の寂しさ。個人的には薮くんサイドのお話やその後のふたりも気になります。また落ち着かれたら新しいお話もお待ちしてます(^ω^) (2018年5月19日 20時) (レス) id: 85d71dbfbe (このIDを非表示/違反報告)
琴葉(プロフ) - かほさん» こんにちは。受験、終わりました。応援ありがとうございます^^ (2018年3月7日 15時) (レス) id: 3ce7e31af3 (このIDを非表示/違反報告)
琴葉(プロフ) - ひなたさん» こんにちは。受験、終わりました!待っててくださってありがとうございます。今週中には更新するつもりです。遅くなってごめんなさいm(_ _)m (2018年3月7日 15時) (レス) id: 3ce7e31af3 (このIDを非表示/違反報告)
かほ(プロフ) - このお話大好きです。受験、応援してます! (2018年2月10日 20時) (レス) id: fb0730de71 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:琴葉 | 作成日時:2017年8月23日 12時