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「こんな惨めな気持ち、あるだけ無駄じゃないですか」
「……その気持ちに未練はないんだね?」
「え…?」
そう言って高木さんはポケットから小さな小瓶を取り出す。中に入った液体が彼の手によってゆらりと怪しげに揺れた。
「ここに恋心を忘れる薬がある」
「うそ……」
「まだ開発途中だから試作品だけどね。伊野尾くんにあげるよ」
「試作品って…それじゃあまるで実験台じゃないですか…」
「まあ、使うか使わないかは伊野尾くん次第だよ」
俺は手渡された小瓶を空中でひと振りする。少し青みがかったそれはまるで毒薬のようにも見えた。
こんな少量の液体ですべてが終わる。彼への想いも、俺の葛藤も、すべてが0になる。
─ほんとに?
「もしもその声が届いたならば、彼女は最期に何を伝えたかったのだろう」
「え……?」
「自分とは違う世界の人に恋をした。その為に声を失い、追いかけて掴んだのは残酷な二進法だった。それでも、彼との恋は叶わなかった」
「……」
「もしも、最期だけ人魚姫に声が使えたとしたら…自分ではない別の女性を選んだ王子に彼女は何を伝えるだろう」
「……そんなの、決まってるじゃないですか。貴方が好きって伝えるんです」
「恨み言ではなく?」
「恨みませんよ。……だって、」
答えなんて単純なものだった。
彼のことを愛していたからだ。他の誰よりもずっと。
言葉は途中で声にならずに涙に変わり、机の上にポタポタとシミを作っていく。手から小瓶が滑り落ちて、パリンッと乾いた音を立てた。
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琴葉(プロフ) - ひなたさん» コメントありがとうございます!矛盾しているその気持ちわかります。映画が終わった瞬間だとか、最終巻を読み終えた時だとか。薮くん視点やその後のお話、考えてみますね。時間がかかってしまうのですが、待っていていただけると嬉しいです。とりあえずただいまです。 (2018年5月22日 16時) (レス) id: 3ce7e31af3 (このIDを非表示/違反報告)
ひなた(プロフ) - おかえりなさい。今更みたいになってしまいましたが。完結してしまったんですね。続きを読めて嬉しかったけれど終わってしまうと一抹の寂しさ。個人的には薮くんサイドのお話やその後のふたりも気になります。また落ち着かれたら新しいお話もお待ちしてます(^ω^) (2018年5月19日 20時) (レス) id: 85d71dbfbe (このIDを非表示/違反報告)
琴葉(プロフ) - かほさん» こんにちは。受験、終わりました。応援ありがとうございます^^ (2018年3月7日 15時) (レス) id: 3ce7e31af3 (このIDを非表示/違反報告)
琴葉(プロフ) - ひなたさん» こんにちは。受験、終わりました!待っててくださってありがとうございます。今週中には更新するつもりです。遅くなってごめんなさいm(_ _)m (2018年3月7日 15時) (レス) id: 3ce7e31af3 (このIDを非表示/違反報告)
かほ(プロフ) - このお話大好きです。受験、応援してます! (2018年2月10日 20時) (レス) id: fb0730de71 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:琴葉 | 作成日時:2017年8月23日 12時