4.カテゴリーエラー ページ16
マーメイドの憂鬱、天色の約束、空が落ちてくるの続き
「あの日暗闇の中で聞いた世界が崩れていく音は、今でも俺の耳に残っている。」
4.カテゴリーエラー
伊野尾 side.
「…あれ、珍しい」
「お疲れ様です、高木さん」
スタッフオンリーと書かれた少し重たい扉を開けると、見慣れたバイト先の制服のその人はコップ片手にこちらへと向き直った。
「何?どうかした?」
「ちょっとしたお土産を渡しに…」
「おっ、珍しい。そういえば薮も」
カラカラと笑う高木さんの台詞に不意に入り込んだ彼の名前に、嫌でもピクリと反応してしまう。そんな動揺を悟られないように、俺はすぐさま手に持っていた袋を差し出した。
「この間お祭り行ってきたので、そのお土産です。どこかでぶつけちゃったみたいで少し欠けてるんですけど、そこはまあご愛嬌ってことで」
「へえ、青いりんご飴」
「……見た目はこんなにも青くて綺麗なのに」
「うん?」
「深い青に金粉が散らばってて星空みたいに綺麗なのに、欠けたところから中を見たらただのりんごだったんです。…なんて、りんご飴だから当たり前なんですけど、なんだか現実が見えちゃったみたいで寂しくなっちゃって」
「…コーヒーでも飲んでくか?」
知らず知らずのうちに語尾が弱くなってしまったこちらを気遣ってか、高木さんは空いた席に俺を促す。申し訳ないなと思いつつも、思いの外ここが居心地良くてそのご厚意に甘えることにした。
「─それで?どうしたの」
少しして芳ばしい香りが立ち込めたマグカップを差し出され、俺は両手でそれを受け取る。机上に置かれた角砂糖をひとつカップに投げ入れながら、茶目っ気を含めた表情で高木さんに向かってニコリと笑った。
「薬、を作ってほしくて」
大学の薬学部に通っていてもまだ3年生の高木さんには少し難しいお願いだとは思ったが、ガラでもないそんなロマンチックな話をできる相手なんて彼しかいない。
「なんの?」
高木さんが驚いたように目を丸くしながらも優しく聞き返してくせたのを見て話を続けた。
「惚れ薬が欲しいなあって思いまして」
「…それはまた女の子みたいなことを」
「よく言われます」
「見た目だけ、な」
そりゃあそうだ、と漏らしつつスプーンで角砂糖が入ったコーヒーをくるくる回す。惚れさせたい奴でもいるの?という高木さんの問いかけに笑って首を振った。
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琴葉(プロフ) - ひなたさん» コメントありがとうございます!矛盾しているその気持ちわかります。映画が終わった瞬間だとか、最終巻を読み終えた時だとか。薮くん視点やその後のお話、考えてみますね。時間がかかってしまうのですが、待っていていただけると嬉しいです。とりあえずただいまです。 (2018年5月22日 16時) (レス) id: 3ce7e31af3 (このIDを非表示/違反報告)
ひなた(プロフ) - おかえりなさい。今更みたいになってしまいましたが。完結してしまったんですね。続きを読めて嬉しかったけれど終わってしまうと一抹の寂しさ。個人的には薮くんサイドのお話やその後のふたりも気になります。また落ち着かれたら新しいお話もお待ちしてます(^ω^) (2018年5月19日 20時) (レス) id: 85d71dbfbe (このIDを非表示/違反報告)
琴葉(プロフ) - かほさん» こんにちは。受験、終わりました。応援ありがとうございます^^ (2018年3月7日 15時) (レス) id: 3ce7e31af3 (このIDを非表示/違反報告)
琴葉(プロフ) - ひなたさん» こんにちは。受験、終わりました!待っててくださってありがとうございます。今週中には更新するつもりです。遅くなってごめんなさいm(_ _)m (2018年3月7日 15時) (レス) id: 3ce7e31af3 (このIDを非表示/違反報告)
かほ(プロフ) - このお話大好きです。受験、応援してます! (2018年2月10日 20時) (レス) id: fb0730de71 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:琴葉 | 作成日時:2017年8月23日 12時