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イヤだ。こんなこと言いたくないのに、取り留めのない言葉がボロボロと零れ落ちていく。
「俺、何も知らなかった」
「え…?」
「でも、しょうがないよね。俺はただの友達、だもん」
「伊野尾…?」
あの子と話す薮はまるで知らない人みたいだった。俺の知らない声色で、俺の知らない表情をして笑うただの男子高生だった。
俺の知らない薮をあの子が知っていた。ただそれだけの話だった。
馴染みのある音と共にアナウンスの声が聞こえる。もうすぐ花火が打ち上がるらしい。
「……やぶ、離して」
これ以上彼のそばにいるのが辛くて、すっかり力の弱まっていたその手をふりほどき逃げるように人気の少ない道へと駆け出していく。終始俯いていたから、彼がどんな表情をしていたかはわからなかった。
*
「…はあっ、はぁっ……」
やがて灯ひとつない真っ暗な道へとたどり着き、ようやく立ち止まった俺はゆっくりと自身の呼吸を落ち着かせる。
胸がこんなにも痛いのは急に走ったから。頬が微かに濡れているのは汗をかいたから。そんな訳ないのに、何度も何度も自分にそう言い聞かせる姿は我ながらひどく惨めだった。
遠くから花火の音が聞こえる。祭り会場から離れたここからでは空に浮かぶ大きな花はこれっぽっちも見えなくて、響く音がまるで何かが地の底を唸っているようにも聞こえた。
『イギリスの寓話だよ。知らない?』
俺は真っ黒でしかない空を見上げる。思い出すのはあの日彼とした会話。
『頭に木の実が落ちてきたのを空が落ちたって勘違いしたヒヨコの話』
『ああ、だから世界の終わり…』
『空が落ちる。世界が終わる。最後には絶望しか残らない』
「……ほんとだね」
何も残らなかった。残酷な現実と惨めな俺の恋心しか残らなかった。
目頭が段々と熱くなっていく。視界がぼやけて見上げた空がぐわりと歪んだ。
「…ああ、」
空が落ちてくる。
Fin.
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琴葉(プロフ) - ひなたさん» コメントありがとうございます!矛盾しているその気持ちわかります。映画が終わった瞬間だとか、最終巻を読み終えた時だとか。薮くん視点やその後のお話、考えてみますね。時間がかかってしまうのですが、待っていていただけると嬉しいです。とりあえずただいまです。 (2018年5月22日 16時) (レス) id: 3ce7e31af3 (このIDを非表示/違反報告)
ひなた(プロフ) - おかえりなさい。今更みたいになってしまいましたが。完結してしまったんですね。続きを読めて嬉しかったけれど終わってしまうと一抹の寂しさ。個人的には薮くんサイドのお話やその後のふたりも気になります。また落ち着かれたら新しいお話もお待ちしてます(^ω^) (2018年5月19日 20時) (レス) id: 85d71dbfbe (このIDを非表示/違反報告)
琴葉(プロフ) - かほさん» こんにちは。受験、終わりました。応援ありがとうございます^^ (2018年3月7日 15時) (レス) id: 3ce7e31af3 (このIDを非表示/違反報告)
琴葉(プロフ) - ひなたさん» こんにちは。受験、終わりました!待っててくださってありがとうございます。今週中には更新するつもりです。遅くなってごめんなさいm(_ _)m (2018年3月7日 15時) (レス) id: 3ce7e31af3 (このIDを非表示/違反報告)
かほ(プロフ) - このお話大好きです。受験、応援してます! (2018年2月10日 20時) (レス) id: fb0730de71 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:琴葉 | 作成日時:2017年8月23日 12時