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本当はそわそわの理由は別にあったのだけど、彼が俺の様子を気にしていてくれたのが嬉しかったからへらりと笑って肯定する。彼の隣に並ぶ俺の足取りは心做しかいつもよりもふわりと軽くて、自然と込み上げそうになる笑みを唇をきゅっと噛んでごまかした。
(…こーた、こうた、……宏太。)
心の中でそっと彼の名前を反復する。下の名前なんて所詮はただの人の区別をする呼称なのに、彼のものだと思うと妙にくすぐったいのはどうしてだろう。
「………宏太。」
「…え？」
「あっ…」
しまった、周りの騒がしさに油断してた。
気分がすっかり浮ついていたからか自然と口から滑り落ちてしまったのは、普段は絶対に呼ぶことのない薮の下の名前。その三文字が至近距離にあった彼の耳に届いたかなんて、その少し見開かれた目を見れば一目瞭然だった。
「……聞こえちゃった…？」
「うん、聞こえた」
「いや、その、ちょっとした冗談というか、なんというか…」
「伊野尾、」
薮と距離を取ろうと図るも、そのまま手首を掴まれてそれすらできなくなる。心臓がドクドクとうるさくて今すぐこの状況から逃げ出したくてたまらないのに、彼から目をそらすこともできない。少しの沈黙の後、やがて薮はゆっくりと口を開いた。
「…さっきの、」
「あれっ！？宏太！？」
静かな空間に突如入ってきた大きな声に、身体がビクリと強ばる。さっきまで掴んでいた筈の彼の右手は呆気なく俺の元から離れていった。
「やっぱり宏太だー！なんでまだ制服着てるの？」
「ああ、遅くまで学校残ってたから…」
「てかお祭りとか行くんだね！」
「たまにだけどね」
声の主は下駄の音を立ててこちらまで駆け寄ってくる。色鮮やかな浴衣を着て肩までかかるぐらいの髪をハーフアップにしたこの子は、会話から察するに薮のクラスメイトのようだ。薮の後ろに隠れるような立ち位置になっているせいで、彼女はまだ俺の存在に気がついていない。
「今日のコミュ英の小テストどうだった？」
「うーん、まあまあかな」
「とか言って宏太はいっつも高得点だよねー。2組のカナちんまた満点叩き出したらしいよ？」
コミュ英の小テスト。2組のカナちん。
こちらにはわかり得ない話題が二人の間で繰り広げられていく。彼女の口から発せられる“宏太”という単語がやたら耳にこびり付いて離れなくて、胸がチリチリと焼け付いていくようだった。
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琴葉(プロフ) - ひなたさん» コメントありがとうございます！矛盾しているその気持ちわかります。映画が終わった瞬間だとか、最終巻を読み終えた時だとか。薮くん視点やその後のお話、考えてみますね。時間がかかってしまうのですが、待っていていただけると嬉しいです。とりあえずただいまです。 (2018年5月22日 16時) (
レス) id: 3ce7e31af3 (このIDを非表示/違反報告)
ひなた(プロフ) - おかえりなさい。今更みたいになってしまいましたが。完結してしまったんですね。続きを読めて嬉しかったけれど終わってしまうと一抹の寂しさ。個人的には薮くんサイドのお話やその後のふたりも気になります。また落ち着かれたら新しいお話もお待ちしてます(^ω^) (2018年5月19日 20時) (レス) id: 85d71dbfbe (このIDを非表示/違反報告)
琴葉(プロフ) - かほさん» こんにちは。受験、終わりました。応援ありがとうございます^^ (2018年3月7日 15時) (レス) id: 3ce7e31af3 (このIDを非表示/違反報告)
琴葉(プロフ) - ひなたさん» こんにちは。受験、終わりました！待っててくださってありがとうございます。今週中には更新するつもりです。遅くなってごめんなさいm(_ _)m (2018年3月7日 15時) (レス) id: 3ce7e31af3 (このIDを非表示/違反報告)
かほ(プロフ) - このお話大好きです。受験、応援してます！ (2018年2月10日 20時) (レス) id: fb0730de71 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：琴葉 | 作成日時：2017年8月23日 12時
