夜闇興信所～異界見聞録～ (ページ5)

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能面その伍ページ5

琥珀「能面が、二つ？」

翡翠「あぁ、多分な。」

春「え？二つってどういうこと？能面って一つじゃなかったの？」

南「どういう事なのか説明していただけませんか？」

　僕のお師さんである先輩は、ニヤリと笑った。で、先輩は寮の中を一人で歩きだした。まるで、その方向に答えがあると分かっているように。僕らも後に続くとその先には、物置があった。物置というか要らないもの使わないものをしまう倉庫のようなところだった。先輩は、その中に入ると一つの面を引っ張り出してきた。その能面は、埃を被っているのか古めかしい印象を漂わせている。

琥珀「この能面は？」

翡翠「春の部屋の前に落ちていたのはこれだな。これは、俺の推測でしかないが、新春は何もかもが新しくなる季節だ。それは道具や雰囲気だけじゃない。目に見えないすぐ側にいるものも時に変わるときがある。この能面は見廻り用のものだ。で、枠にはめてあるのは、信号用になるな。」

春「守り神みたいなものってこと？」

翡翠「そういうことになるな。春の部屋の前に落ちていたのはおそらく、何かを追い払った後か危険を知らせるためのものだったんじゃないか。で、これは事実になることなんだが、ここの寮に入るための扉は、方角でいう鬼門になっている。で、丁度枠にある能面の前は、霊の通り道になってる。」

琥珀「霊道になってるってことですか？」

翡翠「霊道とは少し違うな。ここは元々人が手を加えてはいけない土地だったとしか言い様がないが、まぁ、あれだ。霊の通り道+鬼門が重なってることを踏まえて考えてみると、絶対に誰か倒れても死んでもおかしくないはずだが、誰一人倒れていないし、寮から出ていく者も居ない。それに反して、動く能面、枠から出ている能面の目撃談が多い。‥‥恐らくだが、この二つの能面にはかなり強めの呪い(まじない)が掛けられている。つまり……。」

誠也「誰かが故意にやったってことですか？」

南「いったい誰が……。」

翡翠「それは、ここの寮のおばちゃん、静江さんの亡くなった旦那さんだとふんでいる。本人に聞ければいいけど、本人は、もう天国にいるだろうからさ。だから、静江さんに死んだ旦那さんの事を聞けばいいだろう。推測だが、子供好きなんだろうさ。」

そういい終わり、僕のお師さんは欠伸を１つした。僕らは寮のおばちゃんである静江さんに話を訊きにいき、お師さんの言うことが正しいことを知った。で、お師さんが寮を出たところで僕に手招きをした。