42話《劈く記憶》前編 ページ15
ベルさんが言っていたイタリア語のことがずっと気になって仕方がなかった。
なんて言ったんだろう?
自分でもよくわからない。
『って、わ!焦げる焦げる!』
塩鮭を焼いたまま考え込んじゃダメだ。
とにかく今は料理に…。
ベル《無意識状態で蓄積言語を発声したってことは…(苦笑》
わたしはベルさんの悲しげなあの顔を振り払うように料理に集中した。
後は…皿に盛って、隣に大根おろしを…。
赤『おい。帰ったって言ってるだろ。』
『きゃあああああ!』
赤『うおっ。あぶねえあぶねえ。俺だ。』
『しゅ、秀一さん。び、びっくりさせないでくださいよ…もう。』
赤『集中しているのはいいことだが、少しは周りにも気を配れ。』
怒られたと思い、少し頭を下げ反省していると優しく頭を撫でられた。
『え?』
赤『俺は怒ったんじゃない。怪我するから気をつけろって言っただけだ。怪我がなくて本当に良かった。』
そう、優しく笑いながらわたしの頰にキスをした。
『あ、ありがッ!!…』
赤『!おい、A!しっかりしろ!』
頭を鈍器で殴られるような鈍くそれなのに鋭い痛みが走り続ける。
走馬灯のように記憶が巡る。
お父さん、お母さん…故郷イタリアのアブルッツォ州のラクイラ。アドリア海で泳いだ記憶…転勤で日本…アメリカ。お父さんをこの手に掛けた記憶…どんどん流れ込んでくる。
秀一の優しい笑顔とジンのたまに見せる優しい笑顔。
重なって嫌で死んでほしくなくて…。
『しゅ…秀一。』
赤『!!A!』
『あの時…私、痛くなかったよ。弾丸の痛みなんて感じてなかった。でも、一番痛かったのは……二人の哀しい…顔を…み…た時…。』
そこから意識がなくなった。
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作者名:米介 | 作成日時:2018年8月9日 13時