【文スト】此の愛しき地獄に祝杯を

理由 ページ8

「待てA・・・手前なんつった！心中！？心中っつったか！？」


中原様は、動揺のせいか、普段名前呼び等絶対しないのに、凄まじい勢いで私の名前を呼び、詰め寄って来る。



『ち、近いです中原様！あと叫ばないで下さい、運転手様に申し訳無いですし・・・』



「彼奴は俺の部下だから今は善い！」



・・・其れは少し非道くないですか。



「兎に角だ！心中?手前と心中したがる物好きは、俺の知る限りじゃ一人しか居ないンだが其奴で合ってるか?」



なんと云うか、一周回って鬼気迫る表情だ。私は躊躇いがちに頷く。



『はい・・・太宰さんです』



「矢っ張りかよ！」



中原様は、気が抜けた様に背凭れに背中を打ち付けた。此方側にも其の振動が響くのですが。



「おい情報屋」



一寸は落ち着いたのか、中原様の呼び方が元に戻った。



『・・・如何致しました?』



「如何致しましたじゃねえよ。スカした返事してんじゃねえ、青鯖の性根の腐敗が移ったか?」



明らかに先程より声が刺々しく成って居る。無理も無い。取引相手が突然『此の度死にます』と報告して来たのだから。事実を客観視するとはっきり判るのだが、私相当莫迦だな。



けれど、萎れてる時に、貴方は意外な言葉を発した。



「心中なんざ阿呆らしい。先刻も云ったが手前は只の餓鬼じゃなくて有望な餓鬼なんだ。無責任に人生投げ出して甘えんな、其れとも彼の放浪者(バカボンド)みてえに成りてえのか?」



・・・此れは、激励?



私みたいなろくでなしを激励して呉れる等、マフィア幹部なのに人の好い方だ。



・・・其れでも。



『いえ・・・私には、生きる理由等有りませんので』



「でも死ぬ理由もねえ。だろ?」



何で貴方は其処迄執拗に生を押し付けるのか。



私はもて余した視線を、涙の様に窓をなぞる雨の雫に向けて、気まずさを誤魔化して居た。

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