【文スト】此の愛しき地獄に祝杯を

仕事 ページ6

Aside


昨夜も又、君の夢を見て居た。



でも其の割には寝覚めが好い。誰かが寄り添って呉れて居た気がして。


然し、其れでも胸の底に虚無感は残って居た。



私は結局、君で無いと心の隙間は埋まらないんだ。唯一埋めて呉れそうなあなたは、きっと私等只の遊び相手位にしか思って居ない。



『・・・さっ、仕事行くかな』



気分を切り換える様に呟いて、私は顔を洗おうと身を起こした。



片付けずに放って置いてあるテエブルの上には、飲みかけのグラスと微かな残り香が、あなたのお土産代わりに置いてあった。



*****


今日の仕事相手は、此の巨大な港湾都市を支配するポートマフィアの五大幹部、中原中也様だ。



背は私より低いが、度胸と体術は凄まじい。私はそんな中原様を尊敬して居る。



待ち合わせ場所の路地には雨が降って居た。雨の降る屋外は情報屋にとって格好の仕事場だ。



雨音が声を掻き消して呉れる、傘を差して居るので顔も見えない。



其の雨の中に、綺麗に仕立てられたスーツを着た小柄な青年が居る。年は私より少し上。



『中原様、此の間連絡した日暮(ひぐらし)です』



青年に声を掛けると、此方を向いた。蒼く澄んだ目がはっきりと見えた。




「中也で善いっつってンだろ此のマセガキが」



不機嫌な声は雨の中でもきちんと聞こえる。マセガキって、私、貴方とあまり年の差無いと思うのですが。



『依頼人と無闇に親しくするのは情報屋の御法度ですから』



「彼の青鯖(糞太宰)は例外かよ?」



意外とそんなゴシップに関しても情報が早い中原様に面食らう。私は苦し紛れに云った。



『太宰さんはもう仕事相手では御座いませんので』




中原様は興味も無さそうに鼻を鳴らした。



「まあ彼の鯖野郎と手前の事は如何でもいい。それで、今日の用件は何だったよ、情報屋?」



此処からの会話は聞かれてはならない。私は声を潜めた。



『貴方がたの首領が、無法者に命を狙われて居ます』



「ンだそりゃ。何処の野郎だ」



私は、マフィアの首領暗殺を企てて居る組織の組織名、構成員名、アジトの場所を教えた。



『・・・さて、此の料金で教えられるのは此処迄ですかね?』



「いいよ、其れで充分だ。芥川の部隊を動かして襲撃させる」



中原様はニヤリと不穏に笑った。

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