【文スト】此の愛しき地獄に祝杯を

外傷 ページ27

太宰side




敦君とAちゃんが、口論に成って居る声が医務室の壁越しにもはっきり聞こえた。




尤も、口論と云うよりはAちゃんが一方的に敦君を責めて居る様ではあったが、そんなあの娘の方が、泣き出す寸前の幼児の様な表情で医務室を飛び出して来た。




「あ、Aちゃん。もう大丈夫なのかい?」




喧嘩したのかい?等と聞くと盗み聞きしていた事が丸分かりだ。態と私は鈍感な振りをして訊ねた。




『はい、大丈夫です。有難う御座いました！』




早口で云って、勢いよく踵を返す。取り繕って居るつもりだろうが、明らかに其の動作が不自然だ。




「おい、彼女、明らかに大丈夫じゃ無いよな?」




国木田君が、私の方を責める様に見た。




「そうだねぇ」




私の気の無いのを装った返事に国木田君はすっかり気を悪くして、




「誰のせいだと思って居る貴様！貴様の個人的な自 殺趣味に巻き込まれた彼女に精神的外傷(トラウマ)でも残ったら如何責任を取る！大体貴様はいつもいつもいつも(ry」




「私じゃないよ」




国木田の説教を遮る様な形で私は呟いた。




「太宰貴様、この期に及んで責任転嫁等＿＿＿」




再びお小言を垂れようとした国木田君に、私は笑いかけた。




「私は未だあの娘の記憶に精神的外傷(トラウマ)を残せる程想われては居ない」




国木田君は怪訝そうな顔をして、其の隙に私は立ち上がった。




「医務室に行って来るよ」




其処で国木田君はやっと我に帰って、私を止めようとした。




「おい貴様説教の途中で＿＿＿」




「敦君に、如何してもして置きたい話があってね」




Aちゃんの記憶に棲む人物は、敦君だ。




あの娘の記憶に消えない外傷を刻み付けた敦君とは、一度確り話さなければ成らない。




どのみち、私ではあの娘を幸せにする事は出来ないのだから。

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