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情報屋 ページ2

夕陽でうっすらと橙色に染まった壁が見えた。


視界のピントが徐々に合っていく。無機質なテエブル、開いたままのノートパソコン。


『あ・・・寝てたか』



呟いた自分の声が妙に嗄れて居たので一瞬風邪かと疑い、直ぐ思い直す。



違う、風邪じゃない。君の夢を見た後は何時もこうだ。



目許を触ると、生温い雫で濡れて居たので人差し指で拭った。



あれからもう七年は経ったと云うのに、私の心に巣食い続ける君は中々の根性曲がりだ。



或いは、未だに君を忘れようとしない私が諦めの悪い女なのか。



『・・・多分両方だ』



吐息に混ぜる様に呟く。



君との決別から七年は経った私は、此の魔都を駆け抜ける情報屋だ。



あらゆる犯罪組織やマフィアが、私を頼る。



黒社会は面白い人ばかりだ。私はそんな彼等を、少し距離を置いて眺め、必要とあらば情報を提供する。



そんな位置付けだ。



私はそこそこ悪くない生活を送って居る。如何にか成らないかと思って居るのは、君の夢を見た後の虚無感くらいだ。



でも今は居る。此の虚無感を埋めて呉れるかも知れない人が。



私は仕事を再開する気には成れず、本棚の背表紙に手を引っ掛けて一冊の本を取り出す。



何度も読んだ本だ。内容は頭に入らない。



『・・・こんな時、『あなた』が居て呉れたらな』



カチャリ、と玄関口の鍵穴が、返事の様なタイミングで鳴った。



・・・嗚呼、きっとあなただ。



ドアが開いた。


「美味しいお酒が手に入ったんだ、Aちゃんと一緒に飲みたいと思って」



聞き慣れた太宰さん(あなた)の柔らかい声に、私は持っていた(完全自 殺読本)を置いて立ち上がった。

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☆天香☆ - 蟹江さん» ええええええっ!?(歓喜)蟹江様の作品大好きでいつもいつも笑わせて頂いて居るので、まさかそんな蟹江様が僕の小説を読んで下さるとは思わず、超嬉しいです!語彙力の塊ってそれは貴方様では・・・!?本当に嬉しいです、有難う御座います!更新頑張ります! (2019年11月3日 11時) (レス) id: a8fcda6e2a (このIDを非表示/違反報告)
蟹江(プロフ) - 貴方様の小説が読みたくて、探してみました(気持ち悪いことして本当にすみません)文才?って云うんですかね語彙力の塊ですね…!?他では見ないような素敵な作品だと思います!更新頑張ってください! (2019年11月2日 20時) (レス) id: 5573998c0c (このIDを非表示/違反報告)
☆天香☆ - アイさん» こんにちは、コメント有難う御座います!ある意味で思い切りとノリのいい夢主ですよねw万人受けするものを面白く書けない質ですので、新鮮で面白いと言って頂き光栄です!更新頑張ります! (2019年10月20日 20時) (レス) id: a8fcda6e2a (このIDを非表示/違反報告)
アイ - どうもー、天香さんの参加しているイベントの主催者のアイです!まさか、夢主ちゃんが本当に太宰と心中してしまうなんて・・・驚きです!あまりこのような作品は見ないので、新鮮でしたが、とても面白かったです!これからも頑張って! (2019年10月20日 17時) (レス) id: 2d5f8eb3ac (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:☆天香☆ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/amaka00/  
作成日時:2019年10月3日 14時

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