たった一つの居場所【治崎廻】 (ページ25)

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二十四番ページ25

「何してるんだ」

雨の音で周りの音なんて聞こえないないのに彼の低い声はやけにハッキリと聞こえた

「何って貴方が濡れないようにしています」

私のその回答には何も返って来ない

チラッと彼の顔を見てみると口元はマスクで隠れているが晒された目元だけでも一目で顔が整っているのが分かる

そんな彼の眉間には今、皺が寄せられいかにも不機嫌そうだ

「…やっと見つけた！」

「補佐？」

「こんな視界が悪い中、良くAを見つけれやしたね」

互いに話すこともなく沈黙する

そんな時に若干息を切らしながらも来た補佐は傘をさしている手とは反対の空いた手に使っていない傘を持っていた

「びしょ濡れじゃないですか…！ほら、これ使って！」

補佐から傘を受け取る

それからは近くに停めてある車に乗り込んだ

私はずぶ濡れの為、躊躇したが促されたので座った

「オヤジが“Aと連絡がつかねぇ”って心配していたぞ」

補佐が運転する車の中は誰も喋らないので静寂である
そんな中、若頭が突然口を開いたかと思えば独り言みたいにそう言った

呼ばれた訳でもないのに私の名前が彼の口から出た事に何故か嬉しくなる

久し振りだからだろう

私はそう結論付け、“そうですか”と返しながら彼から窓の方へ視線を移す

窓から見える景色は雨のせいで視界が悪く、全くというほど何も見えなかった