第三噺:見知った顔、なれど別人 ページ5
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顔を上げたそこには
衣服さえ違えど、見知った顔があった
帝に斬られる前、目の前に霞んで映った赤が、懐かしくて
先程とは違う涙があふれ出す
雨音が鳴り響き
心配そうに私を覗き込む、貴方は……
『……ゆきむら……?』
「ッ!?な、何故俺の名を……!?」
『……え……?』
はぁ、はぁ、と虫の息を繰り返しながら
驚いた顔の幸村を、潤んだ視界で見つめる
幸村……私、だ
『冗談、きついぞ……なんだ、ここは、日ノ本、なのか……何故、そのような恰好を……?』
「ま、待って下され!それ以上喋れば……ああ、保険証はお持ちか!?」
『……ほけ、んしょ……?何を、申して……おるのだ、幸村……それ、より、帝は……日ノ本は、どうなったのだ……?』
「っ、喋るなと言っている!保険証はどこだ!?お主の物だ!!ええい、邪魔な模造刀だな!病院へ連れて行く!」
『幸村……?なんだ、その、ほけんしょ、とは、それより、日ノ本は―』
「俺はそなたなど知らぬ!!どの【幸村】とお間違えか知らぬが……ええい!!御免!!」
『え……そん、な、幸村、ではないと、こんなにも……似ている、のに』
やっと、知った顔と会えたと、思ったのに
ここは、訳が分からない
狂っている、狂っている。
死にかけな私の前で、嗤った、物を投げた
『しに、たい、日ノ本で、死なせて、ひっ、うっ、木漏れ日を、浴びて、しぬのだ、私は―』
「え……」
『もう、放っておいて、くれ、幸村でないのなら……もう、嫌だ。戦も、生きるのも』
ああ、意識が
幸村、今どこに
三成殿……刑部殿……豊臣は無事か……
信玄公……御身体どうなされた、今は健やかでありますよう
家康……殿……貴殿の、絆……の世は……
「おい!!おい!!しっかり……くそ、病院まで間に合わぬ……!家で応急処置を……!」
遠くなる声は
やはり幸村のそれだった
寂しい、寒い
雨が冷たくて
ここに、緑はなくて
誰もいなくて
一人で
神よ……これが、報いならば、もう、私は二度と……生を授かりたくは、ない
『……ひとり、は、いやだ……』
「ッ……気をしっかり、必ずや、必ずやお助けする!!」
不思議と、意識はないのに
私を抱き上げる腕の温度は、覚えていた
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@無 - どうか更新を...........................() (2019年1月7日 21時) (レス) id: 9d95717760 (このIDを非表示/違反報告)
musiclove9213(プロフ) - 続き楽しみにしてます! 頑張ってください♪ (2018年6月22日 13時) (レス) id: f2e3fea196 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:柚鹿@死神ちゃん★ | 作成日時:2017年7月23日 21時