episode3 ページ5
「色、塗らないの？」
「…藤崎先生」
キャンバスに描かれた絵を覗き込み、笑みを浮かべながら訊ねてきたのは、美術の教師で美術部の顧問も担当している藤崎翔だった。
「まあ…」
「えー、勿体ない！ 折角よく描けてるのに。それ、3年生のリアン・ディザイア君でしょ？」
「はい」
「恋人だけあって、凄い丁寧で綺麗に描いてるよね〜」
「…」
何故知っているんだと視線を投げつけるが、先生は…先生って言うの、なんか嫌だな。藤崎は笑うだけだった。
「…あ、もしかしてあれかな？ 塗らないんじゃなくて、塗れないのかな？」
…正直に言おう。やっぱり苦手だ。この男。
悪い男じゃないのは知っている。傍観者だった頃、気まぐれに別の世界を覗くこともあった。そして前世でのこの男の人生も覗き見た。だから知っている。
だが、やっぱり苦手だ。
「どうぞお好きに解釈してください」
「そうするよ。あ、そうだ。俺もう帰るけど、まだ残る？ 残るんだったら、鍵閉めて職員室に返しといてね〜」
「分かりました。…飲みにでも行くんですか？」
「あれ、分かる？」
「有島先生とですよね」
「えー！ 何で分かったの？」
「あんたが飲みに行く相手って有島先生くらいしか居ないじゃないですか」
「え、酷い…」
他にも居るんだけど！と喚く藤崎の背中を押して追い出した。
「良かったですね。親友が、今度は両親が死ぬこともなく、誰に身体を売るでもなく、不幸とは縁のない、幸せな人生を送れていて」
「え？ 何のこと＿＿＿＿」
「約束の時間に遅れたら、怒りますよ、有島先生」
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作者名：あかり | 作者ホームページ：
作成日時：2019年7月4日 5時
