記憶の中にいる貴女が死んだ【福沢諭吉】 ページ29
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「月が綺麗ですね」
息を吸うような自然な動作で、Aは微笑み乍らそう云った。あまりにも驚きの出来事だったので何も云えずに彼女を呆然と見つめた。そんな様子が面白かったのかAはクスクスと笑う。
「福沢さんは如何です?」
「私は____」
○●○●
付き合い始めてから五年が経ち、其の記念にと指輪を贈った。安物だがいいのか? と聞く私にお金なら乱歩さんの駄菓子代に使われるんだから節約しないと駄目でしょう、と至極まともな答えを口にする。
「貴方から貰えた物は何であろうと宝物です。この指輪、肌身離さず身に付けていますからね! なにがあろうと外しませんから!」
そんなことを云ったAは数日後に____。
○●○●
「記憶が戻る確率は絶望的に低いです。ほぼ不可能かと」
「……そうか」
死にはしなかった。トラックにひかれ、頭を打ち付けて記憶をなくしたらしい。問題は何処まで忘れているか、だ。
「質問はしました……。然し結果は……」
云いにくそうに目を逸らし、言葉を濁らせる。それだけで全てを察してしまった。
そんなわけないだろう。不安を打ち消す為にAの病室へ向かう。
私のことを忘れ、笑いかけてくれないA。想像しただけで胸が張り裂けそうになる。
もう昔のAに会えないかもしれない。そんなの、記憶の中にいるAは死んだようなものではないか。
「A!!」
病室の扉を開けた。Aは寝台の上で上体を起こし、窓の外を眺めていた。頭に巻かれた包帯を見て、思わず大丈夫かと声をかけてしまう。
Aの視線が窓の外から此方に向いた。
「……どちら様でしょうか?」
Aは指輪を身に付けていなかった。
窓の縁に置かれた指輪は寂しそうに輝いていた。
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眠夢_(プロフ) - まって…………なんだこの作品は……ありえない……神がかりすぎている……やばい……マジで作者様も作品も愛してます。すっごい泣けました…… (2021年6月10日 1時) (レス) id: 7e61cd56ff (このIDを非表示/違反報告)
練 紅愛(プロフ) - 泣けた…目が涙出いっぱいで目の前のスマホがまともに見れずに鼻水をすすってました←更新まってます!!リクで宮沢賢治くんお願いしまっす!! (2017年7月29日 13時) (レス) id: f1113fa5e6 (このIDを非表示/違反報告)
零夜 - あれ?可笑しいな。視界が歪んで文字が見ずらい…なんでかなぁ??更新頑張ってください! (2017年7月29日 12時) (レス) id: d97c7ef749 (このIDを非表示/違反報告)
夜野猫 - 初めまして。貴方様の作品大好きです! 特にとある幽霊の苦労話がとても切ない感じでした。リクで中也、お願いします! (2017年7月19日 7時) (レス) id: f7cd2e3a78 (このIDを非表示/違反報告)
ルキア(プロフ) - こんばんは!はじめまして!どのどのお話も切なくて泣けます(T_T)。リクエストでドストエフスキーさんと谷崎君をお願いしたいのですがよろしいでしょうか?。 (2017年7月18日 20時) (レス) id: c7e2de022e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:天原依愛 | 作成日時:2017年5月22日 17時