君がいない、君がいない、君がいない。【文豪ストレイドッグス】【短編集】

傍にいます【坂口安吾】 ページ25

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死んでから気づいたことがある。幽霊という概念は存在したことだ。今までオカルト系などまったく信じていなかったが自分が幽霊になって其の考えは払拭された。

「飛べないのね。幽霊って飛べるものかと思っていたけれど」

地に足は着いていた。特に変わらない見た目。生きているのではないかと錯覚しそうになるが、周りの人に私は見えていないという事実によって自分は幽霊だと自覚させられる。

「どうしようかしら……」

彼に会えるかもしれない。そんな希望を胸に歩き続ける。行き交う人々に当たるが体はあっさりとすり抜けた。変なところで幽霊っぽいなと苦笑し、彼の職場へと辿り着く。

「これは素晴らしい……」

セキュリティシステムは私に効かない。壁をすり抜けて突き進む。壁はすり抜けるが床は何故すり抜けないのかという細かい疑問は頭から追い払った。

「安吾さん！」

彼に駆け寄り、話しかけるも彼は見てくれない。そうだった、私は見えないんだ。

折角会えたのに。気づいてもらえないなんて。おまけに彼もオカルト系を信じない人だ。

私の存在は、否定されているようなもの。

彼にとって私という存在はもう無くされているんだ。気づかない彼に私は唯、ついていくしかなかった。


彼の傍について見守る。仕事をしている彼を存分に眺められるのは素敵だと思う。

然し、喋ることはできない。


「……あら」

仕事で疲れたのか彼は執務机に突っ伏して寝ていた。毛布をかけてあげたいが手は毛布をすり抜ける。

「ねぇ、安吾さん。私は此処にいますよ」

丸まっている背中に触れようとする。勿論手はすり抜けた。

貴方の温もりを感じられない。貴方と一緒にいられない。

「何時か、気づいてくれますか？」

其の問いに答えてくれる人はいなかった。




今日も彼の傍につく。彼は何時も通り仕事に追われていた。部下らしき人と話始めていたので聞き耳を立てる。

「妖怪ですか？」

「そうなんですよ！ あ、坂口さんってオカルト系信じない人でしたっけ？」

「ええ、妖怪など存在するわけないでしょう」

さらりと存在を否定された。彼はまぁ、と話を続ける。

「幽霊はいてほしいですね」

「え、何故ですか？」

「若しも幽霊がいたら好きな人に会えることになるんですよ」

彼は笑みを浮かべ、其の人ならきっと此処に来てくれるので、と云った。

「安吾さん……」

手はすり抜けてしまった。それでも少し嬉しかった。

安吾さん、私は此処にいますよ？

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