もう戻れないと誰かが囁く【泉鏡花】 ページ23
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茜色の空の下。約束を交わして笑い合った。毎日が宝石のようにキラキラと輝いて、何時もは仏頂面の私も彼といる時は少しだけ顔が綻んだ。
「鏡花ちゃん、また一緒に遊ぼうね」
破られるかもしれないちゃちな口約束。然し私と彼は破ったことは一度もなかった。ポートマフィア本部から抜け出して彼と遊び、気づかれないうちに戻る。そんな日々を繰り返していた。
「僕ね、鏡花ちゃんと出逢えて善かったよ」
「……私も」
彼は私に面白い話をしてくれる。私は彼に何もしてあげられていないが彼はそれでいいと云った。
「だって僕、鏡花ちゃんのこと……」
そう云いかけた後、黙ってしまい続きを聞くことができなかった。彼の顔は赤く染まっている。それは茜色の空の所為なのか判らなかった。
彼が照れている理由は察している。然し即座にそんな訳ないと自分の考えを否定した。
「その……また明日会おうね!」
「うん、約束」
其の時見た夕焼けは私に寂しいという感情を与えた。また明日も会えるから大丈夫と自分を鼓舞して何時ものようにポートマフィア本部に帰った。
○●○●
今日も抜け出して約束の場所である公園に向かった。少しだけ高鳴る鼓動。深呼吸し、公園に一歩足を踏み出した。
「……あれ?」
彼の姿がない。何時もなら私よりも先にいるのに、と辺りを見回す。刹那、血の臭いが平和ボケした頭を刺激した。
臭いの出所を探し、地面に目をやると所々に血が付着していた。真逆と思い乍ら血の跡を追う。
血の臭いが、キツくなった。顔をしかめ、拳を握る。
「……ねぇ」
声は震えていた。辿り着いた茂みを掻き分ける。
彼が、顔を歪めて倒れ伏していた。血溜まりが心に渦巻く不安を煽る。大丈夫かと声をかけると彼は不器用に笑った。
「黒い服の人たちが、構成員に関わるな……って。撃たれ、ちゃった……」
彼の口の端から血が零れた。胸元には血がべっとりと付いている。致命傷だ。彼はもう……。
「ごめ、僕……」
「止めてちょうだい。それ以上喋ったら傷に響く……」
私の所為だから、と云ったが彼は否定し、鏡花ちゃんは悪くないよと云った。
「僕ね、鏡花ちゃんのこと____」
彼の手は力を失い、血溜まりに落ちた。途端に今までの思い出が溢れる。
楽しかったこと、嬉しかったこと、教えられたこと、涙が溢れ、頬を伝って地面に落ちた。
「戻りたい……」
過去に、彼がいた頃に、楽しかった頃に。
“もう戻れないよ”
誰かがそう囁いた。
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眠夢_(プロフ) - まって…………なんだこの作品は……ありえない……神がかりすぎている……やばい……マジで作者様も作品も愛してます。すっごい泣けました…… (2021年6月10日 1時) (レス) id: 7e61cd56ff (このIDを非表示/違反報告)
練 紅愛(プロフ) - 泣けた…目が涙出いっぱいで目の前のスマホがまともに見れずに鼻水をすすってました←更新まってます!!リクで宮沢賢治くんお願いしまっす!! (2017年7月29日 13時) (レス) id: f1113fa5e6 (このIDを非表示/違反報告)
零夜 - あれ?可笑しいな。視界が歪んで文字が見ずらい…なんでかなぁ??更新頑張ってください! (2017年7月29日 12時) (レス) id: d97c7ef749 (このIDを非表示/違反報告)
夜野猫 - 初めまして。貴方様の作品大好きです! 特にとある幽霊の苦労話がとても切ない感じでした。リクで中也、お願いします! (2017年7月19日 7時) (レス) id: f7cd2e3a78 (このIDを非表示/違反報告)
ルキア(プロフ) - こんばんは!はじめまして!どのどのお話も切なくて泣けます(T_T)。リクエストでドストエフスキーさんと谷崎君をお願いしたいのですがよろしいでしょうか?。 (2017年7月18日 20時) (レス) id: c7e2de022e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:天原依愛 | 作成日時:2017年5月22日 17時