君がいない、君がいない、君がいない。【文豪ストレイドッグス】【短編集】

受け継ぎ【国木田独歩】 ページ21

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理想を掲げて生きてきた。喩え実現不可能だとしても前だけを見て進んできた。

何か善いことを行うとそれは誰かを幸せにする。Aはそう教えてくれた。彼女は其の言葉が口癖で何時も人助けをしていた。

然し彼女の善い事を莫迦にする奴もおり、偽善者だと嘲笑う者もいた。然しAは一度も挫けなかった。

「莫迦にする人たちはストレスを発散して、やりたいことをできているならきっと幸せだと思うんです。幸せならいいですよ」

「然し……」

「人類全員が幸せになれたらそれでいいんです」

「……人類全員が？」

不可能だろうと否定しようと思ったが止めた。

「私は誰かを助けられて幸せですよ。とても幸せです」





其の言葉が裏切られたのは直ぐだった筈だ。

Aは、子供を庇ってトラックにひかれた。変わり果てた無惨な死体を俺は呆然と見ているしかなかった。




「……寂しくなるねぇ、如何するんだい？」

物思いに耽る俺に与謝野先生は笑いかけ、悲しそうに窓から外を見た。周りの人は変わらず笑顔で暮らしている。Aが死んだことなんて知らないだろう。

「……どうにもこうにもできません。明日を迎え、生きるのみです」

「おやおや、冷たいもンだねェ。早く皆の処に来なよ？」

そう云い残し、直ぐに立ち去ってしまった。手帳を取り出し、「理想」という二文字の熟語を眺める。

“人類全員が幸せになれたらそれでいいんです”

この言葉と俺の理想はよく似ている。誰も理解せず、実現不可能。随分前に手帳に書き込んだAの言葉は今も俺の中で生きている。

「国木田君！ 早く来なよ！」

外で太宰が手を振る。喪服くらいきちんと着ろと叫んでから探偵社屋から出た。

今日はAの一周忌。

俺は理想の為に頑張っている。

A、お前はどうだろうか？

お前の為にも俺は今日も＿＿＿＿


これ以上考えるのは止め、花束を持った。

今日も明日も変わらない。俺は理想の為に生きる。

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