余命宣告【中島敦】 ページ18
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「余命はあと二ヵ月ほどでしょう」
医師にそう云われ、哀れむような視線を向けられた。嗚呼、そうですかと適当に相槌を打ち、診断結果は誰にも教えないように念を押してから探偵社に帰った。
「Aさん、診断結果は如何でしたか?」
私の体調不良を心配してくれた敦君は帰るなり駆け寄って診断書を見た。偽造してもらった診断書には問題無しの一文のみ。
誰も私があと少しで死ぬだなんて思わないだろう。それでいい。皆は知らなくていい。
「敦君、久し振りに逢引(デート)とかしない?」
「え? けど今は仕事が……」
「社長には僕が云っておこう。楽しんできたほうがいいよー」
のんびりとした声の主は乱歩さん。名探偵には全てお見通しのようで私を見ていいの? と心配するような目で見てきた。
病気のことを知ったら皆は何時ものように接してくれない。気遣いはいらない。私は何時もの探偵社が好き。
かといって敦君はどうだろう。悲しむ。絶対にそうだ。恋人の私がそう云うんだから間違いない。
逢引をする場所に選んだのはごく普通の遊園地。はしゃぐ彼を眺め、買ったアイスを食べた。
死ぬまでにしたいことは沢山ある。なにをしようか。
「Aさん、どうして急に遊園地に行こうって云ったんですか?」
「女子だってたまには我が儘になりたいの。私が行きたい気分だから行ったのよ」
「へぇ……」
「そうねぇ、次は水族館に行きたいわ。それから……お洒落なカフェとか、横浜にある有名なスポットは全部行きたい」
「達成するためには数ヵ月かかるんじゃない? お金とかの問題も……」
「嗚呼、そうね」
あと少しで私は死ぬ。
「ねぇ敦君、若し私が死んでも好きでいてくれる?」
何気なくそんな質問をして呆然とする彼を見た。
「Aさんのことはずっと好きです。いや、愛していますからね!」
暫く二人で顔を見合わせ、互いに笑いあった。
嬉しいのに、こんなにも悲しいのは何故だろう。
おやすみなさい、また今度【中原中也】→←命を懸けた嫌がらせ【太宰治】
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眠夢_(プロフ) - まって…………なんだこの作品は……ありえない……神がかりすぎている……やばい……マジで作者様も作品も愛してます。すっごい泣けました…… (2021年6月10日 1時) (レス) id: 7e61cd56ff (このIDを非表示/違反報告)
練 紅愛(プロフ) - 泣けた…目が涙出いっぱいで目の前のスマホがまともに見れずに鼻水をすすってました←更新まってます!!リクで宮沢賢治くんお願いしまっす!! (2017年7月29日 13時) (レス) id: f1113fa5e6 (このIDを非表示/違反報告)
零夜 - あれ?可笑しいな。視界が歪んで文字が見ずらい…なんでかなぁ??更新頑張ってください! (2017年7月29日 12時) (レス) id: d97c7ef749 (このIDを非表示/違反報告)
夜野猫 - 初めまして。貴方様の作品大好きです! 特にとある幽霊の苦労話がとても切ない感じでした。リクで中也、お願いします! (2017年7月19日 7時) (レス) id: f7cd2e3a78 (このIDを非表示/違反報告)
ルキア(プロフ) - こんばんは!はじめまして!どのどのお話も切なくて泣けます(T_T)。リクエストでドストエフスキーさんと谷崎君をお願いしたいのですがよろしいでしょうか?。 (2017年7月18日 20時) (レス) id: c7e2de022e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:天原依愛 | 作成日時:2017年5月22日 17時