君がいない、君がいない、君がいない。【文豪ストレイドッグス】【短編集】

貴方の想いの全てが邪魔【国木田独歩】 ページ16

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死んだ後の世界なんて存在を信じていなかった。極楽浄土などを信じている奴等を嘲笑い、唯、現実を見て過ごしていた。

然し死んだ後の世界はあったらしい。目の前に広がる闇を見渡し、溜め息を吐いた。自分が死んだことは理解している。紛れもない事実だ。

冷静に物事を判断し、膨大な選択肢の中から最良の結果を選ぶ。それが私のやり方だ。死んでもそれは変わらない。さっさと成仏でもしてしまおう。

「……何もないわね」

はっきり云うとできることは何も無い。相槌を打ってくれる人もいない。これが独りなのかと実感する。

何時も彼がいてくれた。下の名前で呼ぶことはできずに国木田さん、と云って許りだった。死ぬ前に下の名前で呼んでおけばよかった。

彼のことを思い出すと次々と生きていた頃の記憶が蘇った。あの頃は楽しかったと年配のように呟く。

私の最期は実に善い死に方だったと思う。彼に襲いかかる異能者の攻撃を受け、彼に看取られて死んだ。泣いている彼を安心させようと笑顔を作ったが作る前に死んだようだ。

「国木田さんは大丈夫かしら」

理想に燃えていた。素敵な人だった。遠い昔の思い出の中でも彼は理想を掲げて格好良く生きていた。

国木田さんのことを思い出すと急に寂しくなった。独りが怖い。そうだ、私は死んだんだ。今更戻れない世界を思い出してどうする。

涙が頬を伝った。死にたくなかったと嘆いても誰も手を取って慰めてくれない。

貴方の愛は素敵だった。私をまっすぐ見てくれた。たまに見せる笑顔は私を癒してくれた。

楽しかった。あの思い出は宝物だ。

だからこそ要らない。私を悲しませないで、貴方を守れて善かったと強がっている私に死を後悔させないで。

なにより苦しいのは私が死ぬ間際に貴方が囁いた言葉。

「A、愛している」

せめて嫌いと云ってくれたら私は未練を残さず成仏できたのに。



貴方の言葉が私を後悔させる。



貴方の言葉が私の“孤独”を強くする。





貴方の想いの全てが邪魔。

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