君がいない、君がいない、君がいない。【文豪ストレイドッグス】【短編集】

愛の唱え方【芥川龍之介】 ページ14

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「愛されたことがないから愛する方法が判らない？ なら私が貴方を愛せば貴方は愛について知ることができるわよね？」

回りくどく付き合ってくれと告げられ、結局成り行きで付き合うことになった。別に不満などは無い。

「太宰さんの苛烈教育を受けていればそりゃあ愛なんて学べないわよね」

Aはそう云い乍ら笑った。どんなに苦しいことでもAは笑顔で乗り越える。そんな所は彼女の長所だろう。

「きっと貴方なら誰でも愛せるような素敵な人になれるわ。大丈夫、私がいるから」

其の言葉と笑顔がとても印象的だった。それが一番脳裏に焼き付いている。





暫く経ってからAは殺された。異能者に襲われたらしい。彼女は最期まで笑顔だったと聞き、唯、胸が締め付けられた。




「阿呆だ、実に阿呆らしい」

真新しい墓にはAの名。周りには綺麗な花が添えられていた。

「なにが愛を教えるだ。教える貴様が死んでどうする」

怒りをぶつけてもAは生き返らない。それぐらい知っている。然し、約束を破られたのが厭で、同時に悲しかった。

愛というものを教えられた。其の愛はAに向けてきた。

愛する相手はもういない。従って僕にはもう愛は必要ない。

僕の愛は教えた張本人のAが奪い去った。愛する手段を消された。

「……花くらいは添えてやろう」

白いチューリップを投げるように墓に置く。花弁は風に吹かれ、ひらひらと揺れていた。

“きっと貴方は誰でも愛せるような人になれるわ”

実現不可能となった言葉がやけに大きく胸に響いた。

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