君との思い出、忘却の彼方【中島敦】 ページ11
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故人との思い出をずっと抱えて生きるのは辛い。もうこの世にいない者に会いたいという欲求は心中で渦巻き、すぐに会えるわけがないと現実が囁く。
名前を呼んでも、ネガディブになっても、何時も隣にいた君はいない。死んだ彼女のことを未だに引きずる僕を探偵社の皆は心配してくれているようだがどうしても立ち直れない。
止めてと叫んだ。厭だと泣いた。心が苦しい、痛い。
独り、心が痛むのを感じ乍らAのことを思い出していた。
涙はもう出ないようで唯、僕は嗚咽を漏らし、座り込んだ。
こんな世界、君がいないなら不完全だ。君がいてこそ僕という存在は構成されていた。
希望もない、愛もない。もう厭だ。
「____太宰さん?」
目の前に苦しそうに顔を歪めた太宰さんがいた。如何したんですかと聞く前に太宰さんが口を開く。
「敦君、これは君の為なんだ。許してもらう心算はないよ。……ごめんね」
唐突に意識は揺らぎ、床に伏せる。
「……記憶を消す異能者がいてね。其の人に頼んで君の中からAさんに関する記憶を消すよ」
其の呟きは誰にも届かなかった。
「あ、れ……?」
探偵社の医務室の寝台に何時の間にか寝ていた。上体を起こしたが急な頭痛に襲われ、少し顔を歪めた。
「痛っ……」
「大丈夫かい? 急に倒れたと聞いて吃驚したよ」
太宰さんは椅子に座って呑気な顔で本を読んでいた。何時もの本かと呆れ乍らもなぜ自分が此処にいるのか。と太宰さんに聞く。
「体調不良だよ。急に倒れたんだって。先刻もそう云ったでしょう?」
「体調不良……」
「ほら、仕事しようよ。急いで!」
太宰さんに似合わない台詞に笑い乍らも寝台から降りる。
「えっ……?」
脳裏に見知らぬ女性が浮かんだ。
其の人は悲しそうに笑い、僕の脳裏から瞬く間に消える。
僕は其の人と会った記憶なんてないし名前も知らない。
それでも、懐かしいと感じるのは何故だろう。
君が消えても世界は廻る【梶井基次郎】→←生きろと君が云う【太宰治】
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眠夢_(プロフ) - まって…………なんだこの作品は……ありえない……神がかりすぎている……やばい……マジで作者様も作品も愛してます。すっごい泣けました…… (2021年6月10日 1時) (レス) id: 7e61cd56ff (このIDを非表示/違反報告)
練 紅愛(プロフ) - 泣けた…目が涙出いっぱいで目の前のスマホがまともに見れずに鼻水をすすってました←更新まってます!!リクで宮沢賢治くんお願いしまっす!! (2017年7月29日 13時) (レス) id: f1113fa5e6 (このIDを非表示/違反報告)
零夜 - あれ?可笑しいな。視界が歪んで文字が見ずらい…なんでかなぁ??更新頑張ってください! (2017年7月29日 12時) (レス) id: d97c7ef749 (このIDを非表示/違反報告)
夜野猫 - 初めまして。貴方様の作品大好きです! 特にとある幽霊の苦労話がとても切ない感じでした。リクで中也、お願いします! (2017年7月19日 7時) (レス) id: f7cd2e3a78 (このIDを非表示/違反報告)
ルキア(プロフ) - こんばんは!はじめまして!どのどのお話も切なくて泣けます(T_T)。リクエストでドストエフスキーさんと谷崎君をお願いしたいのですがよろしいでしょうか?。 (2017年7月18日 20時) (レス) id: c7e2de022e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:天原依愛 | 作成日時:2017年5月22日 17時