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#003 遺恨 ページ4

太宰side

「私、てっきり死んだとばかり。」

そう言っても、隣の娘はけらけらと笑っている。

「嘘だ。解ってたくせに。」

そんなことは無い。

生きていて欲しいと何度も願った事はあるが。

竜頭抗争、ミミックの一件で失ったものも多い。

戻って来た価値のあるものは少なかった。

「解らなかったよ」

私より価値のある人はみんな死んでしまうのだ。

そう思わずには居られない。

「織田作も。」

私はそれ以上言葉を紡げ無かった。

ただ、Aはそう。とだけ応えた。

どうしても最良から零れ落ちるのだ。

私の友人達は。


「この外套、グレエにでもしようかな。」

私の思考に先回りしてか、別の話題を持ち出す。

「そうだ、漂白してみたらいいじゃァないか。」

と至極真面目に返答したのに、

中也にあげたらいいと流されてしまった。

しかし、中也に上げるのはきっと良い。

どうせ大きさは幾許も変わらないのだから、

洗い替えかと思って喜んで着るだろう。

外套の善し悪しには気付いてもその出処までは

考えない単細胞だ。

斡旋の礼だと言えば、ゴミ処理さえしてくれる。

「はは、引く程鈍い。」


ほんの少しだけ、

7年前に、写真でも撮っておけば、

良かったかと、馬鹿な考えが浮かんで消えた。


仕事仲間以上にはなり得ないのに、

記録に残すなど、不毛だ。


誰かが居なくなって、暫くして、

声を忘れて、次第に顔も思い出さなくなっていく。

私達にはそんな関係が調度良いのだと、

そう思い直した。



「ところで探偵社を追い出されてしまったけれど。

仕事のアテはないのかい?」

「否。仕事を探しに探偵社に来たのに。

太宰 セ、ン、パ、イはどうなんです?」

ちっとも尊敬されていない後輩に、無いね、と

応える。

そりゃあそうだ。

2人してろくな仕事をしたことが無いのだ。

本日出るであろう死傷者を予測する方が容易い。

困ったなァと首を傾げて空を眺める。


今頃必死で国木田くんあたりが入社試験を

練っているのだろう。

あと2時間は稼がなくてはいけないのに気がついて、

ゲエっと顔を顰めるが、効果は薄く、

あまり気は晴れない。

戦力外だからと面倒を任されてしまった。


いっそ川を流れてしまおうかと思ったが、

連日の快晴で流れる程の水はなく、

入水日和では無い。





こんな日は枝振りの良い木でも探す他ないと

呟くと、意見が一致した。

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作者名:置いときもの | 作者ホームページ:http://user.nosv.org/p/oitokimono/  
作成日時:2020年7月16日 18時

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