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「で＿＿その人は、伊東歌詞太郎とっちゅう名前なんか？ 全部、漢字でええんか？」
「うん。とはいえ、名前ほど格好いい奴じゃないよ。というか、言ったけれど、和服趣味のおっさんだよ。変な期待はしないでね。少なくとも、それらしくは見えないから、そこんところだけは、心構えをしておいて欲しい」
「いや……そういうことやのうて、な。字面が印象的っちゅうか、象徴的っちゅうか……、まあ、別にいいのやけど。しかし、歌詞太郎とは、なんやかニックネームのつけにくそうな名前やな」
「そういえば、そうだね……子供の頃、あいつ、なんて呼ばれてたんだろうね。興味なくもないけれど。……ていうか、あいつの子供時代自体、想像もつかないな」
歌詞さんの住処は、住宅街から少し離れた位置の、四階建ての学習塾跡＿＿平たく言えば廃墟である。廃墟も廃墟、肝試しでだって近付きたくないどころか、普通に生活していれば恐らく建物という認識で目に入ることさえないだろう、風景としての廃墟である。
大きな地震が来れば多分それで完膚なきまでに全壊してしまうであろう、年季の入った廃墟だ＿＿いや、年季といっても、この学習塾が駅前にできた大手予備校のあおりを食らって潰れたのは、精々数年前のはずなのだけれど。建物とは、数年間人が使わないだけでこんな酷いことになってしまうのだと学ばせてくれる、死に見本のような存在である。
だから、住処といっても、歌詞さんはあくまで勝手に住んでいるだけであって、言うならば不法占拠も甚だしい。私有地、立入禁止の看板に囲まれて、奴は春休みからこっちの二ヶ月を、送っているのである。廃墟内に残っていた机をベッド代わりに、日がないこの町を徘徊している。
徘徊している。
そう、じっとしているわけではない。
だから、こうして訪ねてきてみても＿＿奴が果たして建物の中にいるのかどうかは、出たとこ勝負である。携帯電話もＰＨＳも持っていない歌詞さんに会うのは、正直、運任せの要素が強い。
月崎の日本家屋から、自転車で一時間少し。
勿論、月崎なら、駆け足でも一時間少し。
私達は、その学習塾跡を、見上げていた。
「ところで、阿良々木先輩。阿良々木先輩は、吸血鬼に襲われたとのことやったが＿＿それが阿良々木先輩にとって、初めての怪異……その、怪異っちゅうものやったんか？」
「まあ、多分」
気付いていなかっただけかもしれないけれど。
少なくとも意識したのは、それが最初だ。
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灰猫(プロフ) - 梅茶漬けさん» 梅茶漬けさんコメントありがとうございます！ずっと更新していなかったにも関わらずお気に入り登録を外さずにいてくださりありがとうございます！ちまちまですが頑張って化だけでも完結まで持って行きたいと思います！ (2021年8月3日 19時) (
レス) id: 75a262f2fa (このIDを非表示/違反報告)
灰猫(プロフ) - れいさん» れいさんコメントありがとうございます！一年以上更新してなかったこの作品を発掘してくださっただけでもありがたいのにそんなありがたいお言葉まで……こちらこそ読んで頂きありがとうございます！ (2021年8月3日 19時) (レス) id: 75a262f2fa (このIDを非表示/違反報告)
灰猫(プロフ) - RONONさん» RONONさん、コメントありがとうございます！たくさん好きと言って頂けて嬉しいです！！ (2021年8月3日 19時) (レス) id: 75a262f2fa (このIDを非表示/違反報告)
梅茶漬け(プロフ) - 更新ありがとうございます！！とても素敵な作品だったので通知が来た時はとても嬉しかったです…！これからも無理せず灰猫様のペースで頑張ってください、応援しています！ (2021年8月3日 2時) (レス) id: 38bd223230 (このIDを非表示/違反報告)
れい(プロフ) - 一気見しました。すごい好きです！作ってくれてありがとうございます←いきなり (2021年6月27日 12時) (レス) id: 1e82b4fb9d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：灰猫 | 作成日時：2020年6月8日 1時
