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38/きたねぇ花火だ ページ38

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ドーン、ドーン───。


「ん……?」


心臓にストンと落ちる低音が聞こえ、高杉は瞼を開いた。

薄暗い室内はもう暑くなどなかった。熱っぽくもなく、体に丁度いい温度が空気に馴染んでいる。視界が晴れてから高杉が真っ先に見やったのはAが寝ていた、


「……いねェ」


祭り、行っちまったのか。

それともフラッと気まぐれな散歩に出たか。

そのどちらも外れているとは知らず、目を伏せた。


「?」


ふと、薄暗い室内に違和感を覚える。

縁側に繋がる左手側の障子がいつもより透けていない。

と言うか障子の上に何か貼っているのか。
誰かのイタズラか? と。

軽くなった上半身を起こし、さっさと撤去してやろうと立ち上がった。


「───!!」


その瞬間、ドーンと一際大きな音が響いた。


花火………だった。

障子の上から貼られていたのは、
一枚一枚が花火を描いた絵だった。


「これは、」


近寄ってよく見てみると一枚一枚、まるで異なったタッチで描かれている。これはつまり一枚一枚、描いた人間が違うという事だ。

松下村塾の塾生は高杉を除き、松陽を加えれば二十三人。

二十三枚ピッタリのこの花火の絵を、誰が描いて誰がここに貼ったのか。

そして花火の絵を外から照らし続ける、散らない光を誰が当てているのか。

それは明白だった。


「…………」


松下村塾から花火を見ることは出来ない。

音が微かに聞こえる程度だ。


「………」


高杉は、丁寧に畳んだつもりが雑に仕上げられた布団に歩み寄る。またも雑に置かれていた一枚の書き置きをそっと手に取った。

殴り書きと言うのに相応しい汚い字で、


『この世で一番綺麗な花火を用意してやった
 ボーナスは松陽に払っておくように
  天才花火師、坂田A』


と、あった。

じわじわ。と胸の中で何かが溢れ出す。

この世で一番綺麗と言うにはみすぼらしい。ただのペラペラの用紙を一番綺麗だと言うなら、実物はどうなんだ。

頼んでもいないのにボーナスを要求するふてぶてしさと言い、全く。

Aらしいと思った。


「……、何がボーナスだ、バカ」


憎まれ口を叩く高杉の顔は、

とても端正で、とても暖かな笑顔だった。


「ったく、きたねぇ花火だ」





────言葉とはまるでそぐわない優しい声に。

草むらから障子を照らしていた"天才花火師"は、ニッと笑った。

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佑依佳 - すごく良かったです。パスワードを教えてくれませんか (4月15日 10時) (レス) id: 4b4e019a12 (このIDを非表示/違反報告)
LIARPIERROT(プロフ) - こちらの作品のパスワードは作者様が作者ページに掲載してらっしゃいます。確認してからコメントしましょう。 (12月21日 20時) (レス) id: 7068d0a9b2 (このIDを非表示/違反報告)
- 初めて読みました。とても感動して続きを読みたいと思いました。なので続きを読ましていただきたくパスワードを教えてくれないでしょうか?これからも頑張ってください!! (11月19日 15時) (レス) id: fd0a1b2f31 (このIDを非表示/違反報告)
菖蒲 - 続きを読みたいのですが、パスワードを教えてくれませんか? (10月20日 12時) (レス) id: de6a447dfa (このIDを非表示/違反報告)
白虎 - 続きを読みたいのですが、パスワード教えてくれませんか? (8月16日 23時) (レス) @page3 id: ec81a6d504 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:糸針 | 作成日時:2018年9月21日 23時

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