第七部 述懐 ページ33
河村がAと二人で話をする場所に選んだのは、QuizKnockがまだこんなにも大きくなってなくて、２０人程度の身内だけの小さな会社だった、そのときのオフィスの近くにあるカラオケ店。
QuizKnockが会社として軌道に乗る前、福良や伊沢達と打ち合わせのときに利用しており、二年ほどの月日が流れたがまだ無事に営業していた。
今のオフィスから電車を乗り継ぎしなければ行けない場所にあって、Aと二人で話をしているのをメンバー達に見つかっても困るのでちょうど良かった。
河村が腕時計で時刻を確かめると、Aに伝えていた待ち合わせ時間より１５分も早く着いてしまっていた。
先に受付を済ませて、受付の店員に後から人が来ることを伝えて部屋に案内してもらった。
すると１０分後、約束の時間の５分前にAが部屋に入ってきて。
『すみません、遅くなりました』
と、河村に謝罪を入れた。河村は。
「いや、これでも約束の時間より早いから謝るのはおかしいよ」
と苦笑いして手を振る。どちらかと言えば河村は遅刻癖があるほうでこういうのに慣れてなくて戸惑ってしまう。謝罪を断られたAのほうも河村と同じように苦笑いを浮かべていた。
ようやくAが入口から一番近い椅子に座ったところで、河村は落ち着いてAの姿を見れた。
オフィスで会うような、いつも通りの服装と柔らかに巻かれた髪。自分が頼んでいた烏龍茶とAが頼んだであろうメロンソーダを持ってきた店員ににこやかにお礼を言っている彼女は病院で会ったときと別人のよう。
だけど、マスクで隠れた顔から唯一読み取れる瞳に、緊張と怯えが混在しているのが河村にはわかってしまった。
『ところで、お話とはなんでしょうか？』
店員が立ち去り、先に沈黙を破ったのはAのほうだった。河村に目を細めて笑顔を作り、心当たりがないと尋ねてくる。
明らかに河村が口に出す話題のことを分かっていながらもこんな風に言うということはAは、認めない、もしくは誤魔化すつもりなのだろう。
河村もそこをわざわざ追求したいわけではないし、伊沢達に言っていないことを咎めたい訳では無い。
ただ河村が伝えたかったのはひとつ。
「僕は何も言わないから、心配しないで欲しい」
それだけだった。
河村はAから、何を？、と明るくとぼけた返答が来るかと思っていたが。
『なんですか、それ』
Aから吐き出されたのは心底不服そうに鼻で笑った呆れ声だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 281人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「QuizKnock」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
わらべ(プロフ) - 和奏さん» とても返信遅くなりましたがコメントありがとうございます！夢主のこと好きって言って貰えてこれ以上ないくらい幸せです！ひとくせある子が好きなので今回の夢主も気に入っていただけると嬉しいです！また読みに来てくださいませ！ (2022年1月23日 20時) (
レス) id: de37784df7 (このIDを非表示/違反報告)
和奏(プロフ) - わらべさんのお話はどれも夢主ちゃんのことが大好きになるので不思議です…更新のたび覆されてワクワクするし最高です〜！これからも応援してます。 (2021年12月31日 23時) (レス) @page44 id: ea0b227b7d (このIDを非表示/違反報告)
わらべ(プロフ) - すみれさん» コメントありがとうございます！好き嫌いが極端に出そうで中々進んで行かない作品ですが、本当に書きたいものを書きたいままやっていました！そこで1人でも好きと言っていただけたので本当に嬉しいです！更新は遅めですが頑張ります！ (2021年10月11日 20時) (レス) id: 34cdc8231e (このIDを非表示/違反報告)
すみれ - めっちゃ好きです〜更新楽しみにしてます！！ (2021年10月8日 17時) (レス) id: 84d3b4ed7e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：わらべ | 作成日時：2021年4月17日 12時
