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自分の部屋の扉を体で押すように開きゆっくりと階段を降りて、電気の灯るリビングへ向かう。
リビングを覗くとテレビも付けず、そこで頭を抱え溜め息を吐いてる父親の姿があった。
その溜め息の発端は、ほぼ私のことだろう。
『…パ、パ……』
なんて呼んでいいか分からなくて当時と同じように呼ぶ。幼く子供っぽい呼び方だと思う。あの頃から外見は勝手に歳を経たが中身はまったく成長出来ていない。
「…A……?!……どした?!…その髪…」
私から声が掛かって驚いて、私の姿を見てまた驚いている。私は美容院に行けなくて、ロングにしたい訳じゃない、ただただ長くなっていた自分の髪の毛にハサミを入れたから。
肩の上の長さで切った髪の毛は素人目にも分かるくらいガタガタである。
久しぶりにちゃんと見た父親の顔…自分の中の記憶よりも白髪は増えシワが深くなりだいぶ老けている。
『…パパ……私大学行きたい……』
久しぶりに出した声は掠れていたし、喋り方も忘れていたのか拙いが何とか言葉にした。そう口にした私の顔を見る父親は瞳を丸く小さくして酷く驚いていた。
『今年…高卒認定試験受ける。……合格したら…大学に行きたい』
中卒で、来年二十歳になるにもかかわらず職務経歴なし。ずっと引きこもっていたから体力もなし。勿論手に職もない…そんな自分を積極的に雇ってくれるなんてゼロに等しい。
なにより私は「美人すぎる東大生」に復讐するのだ…。
復讐する舞台がいる。
『……今まで、迷惑かけたし…馬鹿なお願いだと分かってます……だけどお願いします…』
久しぶりの会話。少し他人行儀になる。何もかも突然のことで何にも言えなくなってる父親に深く頭を下げた。絶対に反対される、お前なんかには無理だ、と言われる覚悟したうえで何度も説得するつもりだった。
だけど、予想に反し…。
父親は頭を下げる私をそのまま抱きしめて泣いてくれた。
お金のことは気にしなくていい。
自分のやりたいことはやりなさい。
ただ無理はするな。
抱き締められ、優しい言葉を掛けられて、鼻の奥がツンとしてくる。私の喉から嗚咽が零れ、もうしゃくり上げる寸前だ。
『…ごめん、なさ、い……っ』
これは今までの謝罪と。
それよりも私がこれからやろうとしていることが最終的に深い深い父親の愛情でさえも裏切る行為になる。
その未来がとても申し訳なくて…。
だけど、もう後戻りは出来ない…。
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わらべ(プロフ) - 和奏さん» とても返信遅くなりましたがコメントありがとうございます!夢主のこと好きって言って貰えてこれ以上ないくらい幸せです!ひとくせある子が好きなので今回の夢主も気に入っていただけると嬉しいです!また読みに来てくださいませ! (2022年1月23日 20時) (レス) id: de37784df7 (このIDを非表示/違反報告)
和奏(プロフ) - わらべさんのお話はどれも夢主ちゃんのことが大好きになるので不思議です…更新のたび覆されてワクワクするし最高です〜!これからも応援してます。 (2021年12月31日 23時) (レス) @page44 id: ea0b227b7d (このIDを非表示/違反報告)
わらべ(プロフ) - すみれさん» コメントありがとうございます!好き嫌いが極端に出そうで中々進んで行かない作品ですが、本当に書きたいものを書きたいままやっていました!そこで1人でも好きと言っていただけたので本当に嬉しいです!更新は遅めですが頑張ります! (2021年10月11日 20時) (レス) id: 34cdc8231e (このIDを非表示/違反報告)
すみれ - めっちゃ好きです〜更新楽しみにしてます!! (2021年10月8日 17時) (レス) id: 84d3b4ed7e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:わらべ | 作成日時:2021年4月17日 12時