禽も困しめば車を覆す

. ページ12

『お時間をいただき、ありがとうございます』

時間になって入ってきた彼女はちゃんと存在していた。

覚えている記憶から10年も経っているのだから当たり前に成長していて、小学生だった少女の面影は感じられない。無邪気だったあの頃の笑い方とは全く違う、何かを経験してきた裏のある笑顔。

河村が思い出すあの子とはあまりにも変わりすぎている。

母親の言うように、あの子は既にこの世にいなくて、面接を受けるこの子は、あの子ではないかもしれないけど。

信じたくなかった。

同じ名前と同じ瞳の色を持つ彼女をあの子だと思い込みたかった。



そして、QuizKnockでは新たに5人のライターを迎えた。その5人の中には彼女も含まれている。

彼女のライター名は「アイ」。名前の由来はイニシャルに含まれている訳もなく、説明も無かったから河村は分からない。

だけど、福良に。

「じゃあ…活動名はどうする？」

と聞かれて直ぐに返答していたから名前には思い入れがあるものだと感じられた。

AAは本名は勿論、容姿も性別も年齢も非公開で活動していきたいというのが…彼女の希望だった。そういうQuizKnockのメンバーは他にもいるので伊沢は快く了承していた。

そこに学歴も加えられるのかと思っていたが。

『…でも、私が高校に行ってないことと…今年東大に入学したことは公表させてください』

意外にもAは伊沢と福良に頭を下げてそう提案し、言うまでもなく、いや寧ろそこを推していきたい二人は笑顔でゴーサインを出した。

彼女が作ったTwitterのアカウントの初ツイートは、初めて彼女が作った記事を宣伝するものだった。

@QK_Writer_i

《初めまして。QuizKnockの新入りライターのアイです。私は諸事情で高校進学をせず、高卒認定試験を受けてから、東京大学への道を選びました。今回、高卒認定試験というものがどんなものかクイズを交えて紹介させていただきます。これからよろしくお願い致します》

第二部 労働→←.

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す