トレイくんその27! ページ9
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それから少し経ったある日、事件が起きた。
体調が悪いという言い訳を使っていた私は本当に高熱を出した。熱に魘されながらも一人で静かに過ごしていれば、廊下から母の足音が聞こえてきた。私は汗を拭ってできるだけ平気なフリをした。
「失礼しますよ。A、お兄様を知らない?」
『お兄様……しらない』
「そう。自習時間を過ぎているのに部屋にいないのよ。古典魔法の授業が押してるのにあの子どこへ行ったのかしら……もしかして」
その時私はハッとした。きっとトレイたちと遊ぶのに夢中になっているのだと。私は少しでも母の気を引こうと身体を起こした。
『お、お母様、私も勉強で聞きたいところがあるんだけれど……』
「お前は安静にしていなさい。お母様は忙しいから相手をしてやれないけれど、すぐ使いの者が来ますからね」
『お、お母様……』
「苦しいときに傍にいてやれなくてごめんなさいね。おやすみ、私の可愛い子」
そう言って母は私の額にキスをして部屋から出て行った。今すぐリドルに知らせないといけないのに身体が言うことを聞かなかった。そうしていつの間にか眠りについていて、目が覚めたときには全てが最悪の状況に変わっていた。
「A、暫くお兄様と口を利くんじゃありませんよ」
『でも、お母様……』
「相手の家にも連絡をしなくては。うちのリドルの大切な時間を奪って……」
折角熱が下がったのにリドルと面会することは叶わず、暫くは隔離されて生活していた。そして私だけがトレイと会うわけにも行かず、チェーニャとも会いたくなかった私は自然と庭へ出なくなっていった。
そして久しぶりに会った兄は、少し雰囲気が変わっていた。
「A、身体の方はもう大丈夫かい?」
『う、うん。もう結構前のことだし……』
「そう。お母様から話は聞いているよね」
話、というのは彼がトレイたちと遊んでいたのがバレたことだろう。少しいたたまれないような空気になりつつも、「うん」と答えた。
「ボクがルールを破ったせいでトレイたちと会えなくなっちゃった。Aの方から伝えといてくれないかい。ごめんって」
『あのね、リドル。私ももう会わないよ』
「ど、うして?」
『……猫が嫌いだから』
リドルに気を遣って、なんてことは言えなかった。言いたくもなかった。それでも彼は分かってしまったのか、少しだけ俯いて「ごめん」と呟いた。キミはなにも悪くないよ、とは言えなかった。言いたかったのに。
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作者名:天 | 作者ホームページ:https://marshmallow-qa.com/_sora_fleur
作成日時:2024年2月15日 21時