妹ちゃんは気づかない。３【トレイ・クローバー】 (ページ8)

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トレイくんその２６！ページ8

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チェーニャから向けられたどろりとした感情が重く頭にのしかかる。あの時の感覚はまだ覚えている。口の中で蠢く他の生命が生理的に受け容れられず、あの日は夜眠れなかった。今でも思い出せば全身から冷や汗が滲む。
本格的にあの日のことを思い出してしまい、頭を振り乱して「うわあああっ」と声を上げた。ペンを壁に投げ床にへたり込む。知らなかった感覚を植え付けられ私を汚した彼の罪は重い。唇をくっつけた時の柔らかさや唾液を口の中に塗りたくられた時の頭がふわふわした感覚が、忘れたくても忘れられない。頭から離れない。

広い自室の床でうずくまっていれば、廊下からコツコツと足音が近づいてきた。私はすぐに身なりを整えて再び学習机に向かった。すると予想通り扉をノックされ「入りますよ」と母の声がした。

「最近部屋にこもりがちだけど、お外で遊んでこなくて良いの？」

『うん。ちょっと元気がないから』

「あら……もしかしてもうこんなところまで進んだの？」

お母様は私のノートを見て感心したようにそう零した。「お兄様に比べれば大したことないよ」と言えば、今度は何か火が付いたように「お兄様はあれくらいできて当然」と言った。

「A、お前は可愛い女の子なんだから、なにもしなくて良いのよ」

『でもお母様、私お勉強は好きよ？お兄様と同じように教えて欲しい』

「ごめんなさいね。お兄様とお前を同じように扱うわけにはいかないのよ。良い子だから、じっとしておきなさい。そしたら何でも好きなもの買ってあげるからね」

それは私がお母様の娘じゃないから？とは口が裂けても言えなかった。
昔お母様が電話口でそういう話をしていたのを聞いたことがある。私とリドルは同い年だが、きっと誕生日も違うし本当は学年も離れているのかも知れない。何故かお母様は双子として私たちを育てている。それを知ってから鏡で見る自分の髪の色や目の色が兄や母と少し違うのにも納得がいった。ローズハートの家系ではあるけれど、私はここの家のこどもじゃない。幸い、リドルと顔は良く似ていた。だから母は私と一線引いているのと同時に、少し偏っ可愛がり方をしていた。

「A、お前が通う学校はお兄様とは違うところだけど、空気が良くて薔薇が綺麗に咲いているところよ。少し離れたところだけれど、お友達も沢山できるからね」

『はい、お母様』

いつもありがとう。心を無にしてそう呟いた。人形というのは持ち主の気に入らない言葉は言わないものだ。