トレイくんその２５！ ページ7
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「あれ、Aはどうしたの……って、なんで転けてるんだ？」
「……ヤマネに飛びかかられた」
「ははっ、猫のお前が？」
椅子から落ちて花壇に埋まっていたチェーニャを引っ張り上げれば、彼はどこか満足そうにニヤニヤと笑っていた。「Aは？」と尋ねれば彼はボサボサの頭をかきながら「知っとると言えば知っとるし、知らんと言えば知らにゃあ〜」と有耶無耶にした。いつものことなので特に気に留めなかった。
「チェリーパイもそのままだし、どうしたんだろ」
「おみゃーがそんなに気にしとるなんて、そんなにあの子が特別かにゃ？」
「……チェーニャ、盗み聞きしてただろ」
「俺がいる前で堂々と告白してた癖になにを言っとるんだがね。ええ？」
「からかうなよ……こう見えても本気なんだよ俺は」
トレイは拗ねたようにどすんと椅子に腰掛けた。チェーニャは葉っぱだらけの頭を左右に振って「見りゃ分かる」と言った。
「Aなら真っ青な顔であっちへ行ったにゃ」
「チェーニャ、Aをからかいたいのは分かるけど度を超すなよ？」
「別にからかっとらんさ」
「俺だって本気だぜ」と笑ったチェーニャの言葉の裏側と、皿の上でぽつんと異彩を放つ結ばれたサクランボの茎の経緯をトレイが知る頃には、もう何もかも手遅れになった後だった。
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「今日も来ないのかい？」
『ごめん。最近具合が悪くて、みんなにうつすと悪いし私は良い』
あの日から私は庭に顔を出さなくなった。屋敷の一番奥まった部屋で一人で過ごすようになり、リドルと私の関係は逆転した。こうしてリドルが自習時間になれば私を呼ぶのだが、私は毎回理由をつけて二人に会わなくなった。
『自習時間、一時間しかないんだからはやく行きな。二人が待ってる』
「……そう。二人も心配しているから、きっと安静にしておくんだよ」
『うん。リドルも気を付けて』
リドルが庭へ出るのを見届け、Aはすぐに部屋へ戻って学習机へ向かった。お母様は私に勉強をさせるつもりなんてなかったのだけれど、それ以外にしたいことがなかった。勉強は良い。集中していればあの日のことを思い出さなくて済むから。
チェーニャにキスされた後どうやって家へ帰ったのか覚えていないが、ずっと動悸がしていて鏡に映った自分の顔が酷く青かったことは覚えていた。肉食動物に捕食される恐怖。ざらつく舌も溶けるように細められた瞳も、全部心が受け付けなかった。
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作者名：天 | 作者ホームページ：https://marshmallow-qa.com/_sora_fleur
作成日時：2024年2月15日 21時
