トレイくんその22! ページ4
・
『……やっぱりリドルを置いて自分だけ楽しんで良いのかって思っちゃうよ』
今が一番幸せ!ってときにいつも脳裏を過るのはリドルの顔だ。今あの子は一人で机に向かっているんだろうかとか、最後にあの子の笑顔を見たのはいつだったろうとか、普段は気にしないようにしていたことが頭の中でぐるぐる渦巻く。自分とリドルの立場が違うのはよく分かっていた。だけどやっぱり、彼を一人きりにして自分だけ遊んでいるのは違うんじゃないかと思う。
トレイに掴まれた手を下ろそうとしたとき、トレイはそれを拒んでギュッと握り直した。
「ねえ、やっぱりその子も一緒に遊ぼうよ」
『む、無理よ。リドルはいつもお母様か家庭教師と一緒にいるもの』
「だけど、この年の子どもが外で遊ばずに部屋に閉じこもって四六時中勉強してるなんておかしいよ。Aだってそう思うだろ」
『お、思うけど、お母様はリドルのことを思って……』
「じゃあAと違う扱いをするのはなんで?」
トレイの言っている意味はよく分かっている。だけどそれを自分の口から説明するのは憚られた。トレイの真剣な眼差しに気圧されながらも精一杯反抗の態度を取った。唇をきゅっと結んで彼から目を逸らさずに見つめていれば、彼はゆっくり手を離した。
「Aが俺たちと遊ぶことに罪悪感なんて感じる必要ないよ。だけど君は優しいからそう思っちゃうんだろ。じゃあ俺は君の力になりたいよ」
『トレイくん……』
彼がどうしてここまで親身に寄り添ってくれるのか分からなかった。ただの親切にしては不器用すぎるし、上辺だけにしてはあたたかい。Aはスカートをきゅっと掴んだ。
『……リドルには毎日一時間だけ自習時間があるの。その時はお母様は席を外すわ』
「ってことは、不可能じゃないわけだ」
『キミも一緒にリドルを説得してくれる?』
そう尋ねれば彼は元気いっぱいに「うん!」と答えた。Aも少し安心して気が抜けたように笑った。
『ねぇ、トレイくん。どうして私に何かあったって分かったの?』
ほんの興味本位で聞いた。あんまりその質問に深い意味はなかった。トレイは目尻を下げて優しい声で言った。
「分かるよ。ずっと見てるからな」
『ずっとって、私たち出会ってそんなに経ってないはずだけど』
彼は笑い声混じりに「そっちじゃないよ」と言った。結局その日、その言葉の真意は分からずじまいだった。今になって分かるのは、この時のトレイは素直で可愛げがあったということ。
38人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:天 | 作者ホームページ:https://marshmallow-qa.com/_sora_fleur
作成日時:2024年2月15日 21時