妹ちゃんは気づかない。３【トレイ・クローバー】 (ページ21)

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ウツボその１２！ページ21

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本当は自分から謝るつもりなんてなかった。先に手を出してきたのは向こうだし、仲直りをしたい気持ちはやまやまだったが彼に向ける顔がなかった。でもここでそのチャンスを逃せばこれきりだと直感した。
普段はよく笑う彼が無表情になれば途端に恐ろしく見えた。ギザギザの歯を見せて彼は「クマノミちゃんさ～」と切り出した。あまりにもシンプル、友達を辞められた。当然だが。

「離してくんない？次は停学だからもうお前と関わんなってアズールから言われてんだわ」

『……キミが怒った理由は分かるよ。私が全部悪かった。だからキミも私を許して』

彼の服を握る指がブルブル震える。緊張で顔も身体も強ばってフロイドの顔を睨むように凝視した。

「フツーにムリ。もうオレに関わんな」

『やっヤダ！なんでそんなこと言うの？』

いつも喧嘩したときには最終的にキミが折れてくれるじゃん。またいつもみたいに「死ね」って言って許してよ。

「じゃあチェーニャってヤツと別れろっつったら別れてくれんの？」

喉がひくっとしゃくり上げ彼の輪郭がぼやけた。脳処理が追いつかないままゆっくりと彼を掴んだ腕を下に下ろした。それはできない。私に決められたことじゃない。
Aが「それは……」と言い淀んでいれば、フロイドは暫くそのまま彼女を見下ろしていたが徐々に顔が歪んで、とうとうその場にしゃがみ込んでしまった。大きな溜息が始業のチャイムでかき消され廊下に溶ける。頭を抱えて彼は「オレだって」と言う。

「オレだってこんなこと言いたくて言ってるんじゃねぇよ……」

彼の名前を呼ぼうとしても声が喉の入り口で詰まって上手く言えない。胸元でギュッと手を握って途切れながら「フ、ロ……イド」と声をかければ、彼は「あ～～も～～！」と頭をかきむしった。
私自身よりもずっと私のことを考えて、私を叱ってくれる。トレイですらしてくれなかったことを彼はしてくれているのだ。これで良いと決めたのは自分なのに、これで良いと何度も自分に言い聞かせたはずなのに。心の奥ではずっと悲鳴を堪えていた私の本質が、フロイドのおかげでようやく表に出てきた。

『どうしよう、フロイド。私……』

「は……？」

『私、チェーニャと別れたい。トレイくんのことが好きだよ……』

怖くて全身がブルブル痙攣しているように震える。本音と共にボロボロ涙が溢れ出てきて、フロイドはギョッと目を見開いて立ち尽くしていた。もう感情に抑えは効かなくなっていた。