トレイくんその21! ページ3
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トレイの親は温かく出迎えてくれ、Aは礼儀正しくお辞儀をした後笑顔でイチゴのタルトを選んだ。たっぷりのイチゴとアクセントのブルーベリー。キラキラと輝いて見えるのは見間違いではなく果実の表面に塗られたジュレによるもの。トレイとチェーニャの二人も同じものを選び、軽い足取りで席に戻った。
『ほ、本当に食べて良いの?』
「良いって。うちの親も、Aが初めて食べるイチゴタルトがうちので嬉しいって言ってただろ?」
「もう待ちきれないにゃあ。いただきま〜す!」
「あ、チェーニャ!」
チェーニャが美味しそうに頬張っているのを見て、Aもフォークを手に取った。小さな一口目を舌の上に放り込めば口いっぱいにイチゴの甘さが広がった。
甘酸っぱい果汁がじゅわっと弾ける。しっとりとしたカスタードにさくさくほろほろのタルト生地は余すところなく美味しい。頬を抑えて「美味しい」と零せばトレイは気持ちの良い笑みを浮かべ、チェーニャは意外そうな顔をして「ふぅん?」と言った。
「おみゃー、そうやって笑っとったらちったぁ可愛げがあるんじゃにゃーの?」
『私はいつも可愛いでしょ?』
「ふふふ、やっぱり面白いにゃ〜」
『キミやっぱりちょっと変よ』
嫌いじゃないけど、というのは伏せておいた。笑いながらタルトを食べていたチェーニャは口の周りに食べかすをつけていた。それを甲斐甲斐しくハンカチで拭ってやれば、彼は少しだけ頬を赤く染めて嬉しそうにはにかんだ。トレイはそれをあまり良く思わなかった。
日が暮れ始める前に帰らないと流石に怪しまれてしまうので良い頃合いを見て解散になった。チェーニャは先に家へ帰り、トレイは屋敷まで送ってくれることになった。段々と色づき始めた空を眺めながら、二人で肩を並べて歩いた。暫くAが一方的に喋り尽くした後、トレイは「あのさ」と話を切り出した。
「途中からなんだか上の空だったけど、何かあった?」
トレイにはお見通しだったらしい。Aはそれまで元気にケーキの感想などを述べていたのに突然電源を切ったように生気を失った。
『……あった』
「そっか。早く聞いてあげられなくてごめんな」
『ううん。トレイくんは何も悪くないよっ!むしろこっちがごめん……』
「A」
トレイはそっとAの手を取った。その時自分が無意識のうちに彼から目を逸らしていたことに気が付いた。ぱっと顔を上げたときに見えたトレイは、普段通りの優しい眼差しを向けていた。
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作者名:天 | 作者ホームページ:https://marshmallow-qa.com/_sora_fleur
作成日時:2024年2月15日 21時